ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 組織からさがす > 健康福祉部 > 衛生環境研究所 > 群馬県における微小粒子状物質(PM2.5)の調査結果について

本文

群馬県における微小粒子状物質(PM2.5)の調査結果について

更新日:2022年12月1日 印刷ページ表示

PM2.5について

 大気中の微小粒子状物質(PM2.5)は、呼吸により肺の深部にまで到達し健康影響を及ぼすことが懸念されており、2009年に環境基準が定められました。PM2.5は様々な化合物からなり、発生源も多岐にわたる極めて複雑な大気汚染物質です。群馬県衛生環境研究所では、微小粒子状物質の汚染実態を把握するため、当研究所の特別研究制度等により2003年度から調査研究に取り組んでいます。 
 PM2.5の発生源は、自動車排ガスや化石燃料・バイオマスの燃焼などの一次発生源だけでなく、大気中でガス状物質から反応生成する二次的に生成する過程もあります。このためPM2.5と一言に言っても、実際には発生源や生成過程に応じて多種多様な化合物で構成される粒子が混在しています。このようなPM2.5の汚染対策には、粒子濃度だけでなく化学成分の把握が重要になってきます。

微小粒子状物質の化学組成

 群馬県では大気汚染常時監視として2011年度からPM2.5質量濃度の自動測定モニタリング、2013年度からPM2.5成分調査を行っています。
 図1は前橋(衛生環境研究所)および太田における季節別のPM2.5組成です。PM2.5の主要成分は、硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、有機物、元素状炭素であり、季節や地点によってそれらの組成比は異なります。図1のPM2.5組成で注目して欲しいのは有機エアロゾル(OA;有機炭素成分OCの1.634倍として算出)の割合がPM2.5成分の中で最も大きいことです。またどの季節においても大きな割合を示していました。
 硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩は、それぞれ硫酸アンモニウム粒子、硝酸アンモニウム粒子として大気中に存在します。硫酸アンモニウム粒子は、工場や発電所等の人為発生源や火山などから排出された二酸化硫黄が大気中で酸化され、人間活動や畜産から排出されるアンモニアガスと反応することによって二次生成します。硝酸アンモニウム粒子は、自動車や固定発生源から排出された窒素酸化物が酸化され、アンモニアガスと反応することにより二次生成します。
 有機物(有機エアロゾル)には、自動車やボイラー施設などの燃焼系発生源から直接排出される一次有機エアロゾルと、揮発性有機化合物(ガス状物質)が大気中で変化して粒子化する二次有機エアロゾルが存在します。前橋では有機粒子についても二次生成の割合が多いことを示す研究データ(文献2, 4)が得られています。
 元素状炭素は、自動車排ガスなどによって排出されるすす状のものです。
 今後、さらにPM2.5を削減するためには、大きな割合を占める有機エアロゾルの対策が重要と考えられます。

2019年度PM2.5成分測定結果
1 前橋と太田における2019年度PM2.5成分測定結果(季節別平均濃度)
  (熊谷ら, 群馬県衛生環境研究所年報, 52, 2020)

 最新のPM2.5の状況はこちらをご覧ください。
 ・群馬県衛生環境研究所年報
 ・環境研究総合推進費について

群馬県におけるPM2.5汚染の特徴

 群馬県のPM2.5は二次生成による無機粒子・有機粒子の割合が大きいことが分かりました。前橋で二次粒子の割合が大きい要因の一つに、群馬県の位置が関係していると考えられます。関東平野では、春から夏にかけて日中に南東風が卓越するため、大気汚染物質は内陸へと輸送されます。そのため、特に夏季においては、群馬県では県内の発生源だけでなく、関東地域内での広域的な大気汚染の影響も考えていく必要があります。これは光化学オキシダントについても同様です。その一方で、越境汚染の影響も懸念されていますが、本県においてはその影響の程度は限定的と考えられます。
 その他、前橋における最近の観測結果では、PM2.5に含まれる特定の成分(有機マーカー)分析から、バイオマスの燃焼(野焼きなど)が秋冬季におけるPM2.5の発生源の一つになっていることを示すデータも得られています(文献4、5)。
 当研究所では、県内のPM2.5汚染状況の把握と発生源を解明するための調査研究に取り組んでいるほか、国や近県の研究機関との共同観測に参加し、PM2.5の関東広域汚染の実態解明に取り組んでいます。

PM2.5有機マーカーに関する研究

 PM2.5主要成分の一つである有機エアロゾルについて、その発生源を解明するため、発生源の指標となる成分(有機マーカー)の研究を行っています。
 ・PM2.5中の有機マーカー多成分測定

当研究所におけるPM2.5に関する主な発表論文

  1. Iijima, A., Tago, H., Kumagai, K., Kato, M., Kozawa, K., Sato, K., Furuta, N.: Regional and seasonal characteristics of emission sources of fine airborne particulate matter collected in the center and suburbs of Tokyo, Japan as determined by multielement analysis and source receptor models., J. Environ. Monit., 10, 1025–1032, 2008.
  2. Kumagai, K., Iijima, A., Tago, H., Tomioka, A., Kozawa, K., Sakamoto, K., Seasonal characteristics of water-soluble organic carbon in atmospheric particles in the inland Kanto plain, Japan. Atmospheric Environment, 43, 3345-3351, 2009.
  3. 熊谷貴美代, 田子 博, 飯島明宏, 小澤邦壽, 坂本和彦: 群馬県平野部および山岳部における微小粒子状物質の季節特性, 大気環境学会誌, 45, 10-20, 2010.
  4. Kumagai, K., Iijima, A., Shimoda, M., Saitoh, Y., Kozawa, K., Hagino, H., Sakamoto, K.: Determination of dicarboxylic acids and levoglucosan in fine particles in the Kanto plain, Japan, for source apportionment of organic aerosols. Aerosol and Air Quality Research, 10, 282-291, 2010.
  5. 熊谷貴美代, 関東内陸部における大気中炭素性エアロゾルの特性および粒子状物質汚染に関する研究, エアロゾル研究, 26, 315-320, 2011.
  6. 星野隆昌, 熊谷貴美代, 山口直哉, 齊藤由倫, 大気中微小粒子状物質汚染の実態調査, 衛生環境研究所年報, 43, 2011.
  7. 熊谷貴美代, 群馬県におけるPM2.5汚染の特徴, 安全工学会誌, 52, No.6, 401-407, 2013.
  8. 熊谷貴美代, 一条美和子, 齊藤由倫, 田子博, 大気中微小粒子状物質(PM2.5)の成分調査結果, 群馬県衛生環境研究所年報, 46, 27-32, 2014.
  9. Kimiyo Kumagai and Akihiro Iijima, Characterization and Source Apportionment Studies of PM2.5 using Organic Marker - based Positive Matrix Factorization, Global Environmental Research, 22: 013─020, 2018.