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水試だより50号

更新日:2018年5月1日 印刷ページ表示

【巻頭】平成30年度水産試験場 試験研究の概要

 水産試験場は、水産振興(養殖業の振興、河川・湖沼における魚の増養殖技術)を目的 に本場、川場養魚センター(旧箱島養鱒センター含む。)において、「試験研究」「調査検査」「普及指導」および「種苗生産供給」と幅広い業務を行っております。
それらの中から、今年度の主な試験研究課題について紹介します。

食用ニジマス「ギンヒカリ」の育成

 養殖環境に左右されずに未成熟が維持できる3年成熟率の低い(4年成熟系)ギンヒカリの育成と、2年成熟魚の出現率を低下させる養殖技術開発を行います。

遊漁用ニジマス「ハコスチ」の選抜

 引きが強く姿形が良いので釣り人に人気のあるニジマスですが、姿形と引き具合をさらに向上させた「ハコスチ」の選抜と、飼育技術研究に取り組みます。

人工アユ増殖の研究

 アユ優良形質魚の系統保存と選抜育種を行うほか、品質の高いアユ種苗を生産・供給を行うとともに、飼養技術や種苗特性、飼料生物培養技術の研究を行います。

アユ冷水病対策の研究

 漁協等関係機関の協力のもと、放流前のアユの冷水病保菌検査を実施するほか、菌の感染経路の研究を行います。また、冷水病耐性アユ(江戸川系)の安定生産技術の確立と放流試験による効果の確認を行います。

水圏生態系における放射性セシウム動態解析

 赤城大沼における放射性セシウムの汚染状況のメカニズムを詳しく知るため、水圏生態系内(ワカサギ、プランクトン等)の動態調査を行います。

ドローンとAI画像解析を利用したコクチバス駆除手法の開発

 アユ等への食害が問題となっているコクチバスやアメリカナマズなどの外来魚対策として、ドローン搭載カメラとAI画像解析を組み合わせた、効率的かつ効果的に外来魚を発見し、駆除する基礎技術の開発研究を行います。

その他の試験研究・普及指導

 希少魚の系統保存と繁殖技術の開発、指導・普及(ワカサギ増殖技術、魚病診断、養魚)、サケ放流試験など、内水面漁業の問題を解決する業務を行います。

遊魚用ニジマス「ハコスチ」の写真

【特集】冷水病耐性アユの開発

はじめに

 群馬県では1994年に河川に放流されたアユから冷水病菌が初めて分離されました。その後、本疾病によって放流アユの大量死が県内の多くの河川で確認され、大きな漁業被害をもたらしています。アユ冷水病の被害を軽減する抜本的な対策の1つとして、冷水病に耐性を有する人工種苗を開発することが考えられます。これまでの研究から海産遡上アユを親魚に用いることで、冷水病に比較的強いアユの作出が可能であると考えられています。このことは海産遡上アユが冷水病耐性に関連する遺伝的な因子を持っている可能性を示すものであり、冷水病に感染して生き残ったアユはその因子を有している可能性がさらに高まると推定できます。そこで本研究では、江戸川で捕獲した海産遡上アユを冷水病菌に人為的に感染させ、生残したアユを親魚として用いることで冷水病耐性アユの作出を試みたので報告します。

試験研究の具体的内容と結果

1 海産遡上アユの冷水病選抜試験

 2011年に江戸川河口域で捕獲した海産遡上アユを水産試験場の屋内飼育池に搬入しました。その後、1,310尾のアユに対して複数の冷水病菌株を用いて冷水病選抜試験を実施したところ、死亡率は95.1%となり、64尾を親魚として養成することができました。

2 冷水病耐性アユの作出

 冷水病選抜試験で生残したアユを親魚として、2011年10月に冷水病耐性アユ(以下「江戸川系」)を作出しました。その後、江戸川系は毎年9~10月に採卵し、現在まで継代飼育しています。

3 冷水病感染実験とフィールド試験による冷水病耐性評価

 2012年(継代数1)、2013年(継代数2)および2017年(継代数6)における江戸川系の冷水病耐性を原因菌の腹腔内注射による感染実験で評価しました。対照魚は、水産試験場で長期継代飼育を行っている群馬系と県内で主に放流されている群海海系を用いました。また、江戸川系と群海海系を供試魚として、2017年に神流川で標識放流し、冷水病の被害状況についてフィールド調査を実施しました。
 2017年の冷水病感染実験の結果を表に示します。江戸川系は群馬系と群海海系よりも冷水病耐性の高いことが分かりました。なお、2012年と2013年も同様の結果となっています。フィールド調査による供試魚の冷水病死亡状況を図に示します。江戸川系と群海海系の死亡尾数に有意差が認められ、江戸川系の冷水病耐性は高いと考えられました。

表 腹控内注射による冷水病感染試験結果
系統 感染強度
(CFU/fish)
供試尾数 死亡尾数 死亡率
(%)

江戸川系
1.0 × 10の7乗
1.0 × 10の6乗
PBS(-)
30尾
30尾
30尾
19尾
0
0
63%
0
0

群馬系
1.0 × 10の7乗
1.0 × 10の6乗
PBS(-)
30尾
30尾
30尾
30尾
8尾
0
100%
27%
0

群海海系
1.0 × 10の7乗
1.0 × 10の6乗
PBS(-)
30尾
30尾
30尾
24尾
2尾
0
80%
7%
0

冷水病死亡状況の折れ線グラフ画像

【水産行政から】ハコスチプロモーションの展開

取り組みの背景及びねらい

 群馬県が開発した遊漁用ニジマス「ハコスチ」は2016年1月に商標登録され、同年から本格的に群馬県内の釣り場に放流されました。群馬県は、マス類管理釣場数60か所と全国トップであり、ハコスチを振興することにより、中山間地を中心に地域の活性化が期待できるため、その認知度向上を図る事業を2016年度から展開しています。

活動の内容

1 PRグッズの作製

 2016年度にポスター、パンフレット、のぼり旗を作製し、関係者に配布しました。また、PR動画も作製しました。

2 放流やイベントの情報提供

 報道機関に放流(場所・時期・量等)やイベント内容等の情報を提供するとともに群馬県ホームページにも掲載しました。

3 ハコスチ体験ルアー釣り教室の開催

 2017年2月25日に川場フィッシングプラザで釣りインストラクター2名を招き、県内外の遊漁者20名を対象にルアー釣り教室を開催しました。その際に、釣り教室およびハコスチに関するアンケート調査も実施しました。

活動の成果

1 PRグッズの作製

 主にポスターは養殖場や釣り場の事務所等に貼られ、パンフレットはハコスチの概要説明時、のぼり旗は釣り場やイベント等で活用されています。また、動画についてはインターネットでの検索や、ポスターもしくはパンフレットのQRコードをスマートフォン等で読み取ることにより閲覧が可能であり、閲覧数は作製時から着実に伸びています。

2 放流やイベントの情報提供

 放流に関するハコスチの記事やイベントが新聞等に掲載され、認知度向上の一助となっています。

3 ハコスチ体験ルアー釣り教室の開催

 参加者全員がハコスチを釣獲でき、そのほとんどがハコスチの引きを非常に強い、もしくは強いと回答しました。また、釣り教室前にハコスチを釣った参加者は少なかったものの、半数以上がハコスチの存在を知っており、全ての参加者が今後もハコスチを是非釣りたい、もしくは釣りたいと回答しました。

今後の方向及び課題

 遊漁者はハコスチを実釣し、引きの強さや特有のジャンプを体感することでリピーターになり得ることが示唆されました。このため、引き続き遊漁者等にはハコスチに関する情報を発信するとともに、観光等と絡めたプロモーションを展開し、遊漁者数の増加を図ります。
 また、今後、ハコスチの需要増が予測されるため、2017年度から飼育条件の異なる養魚場において飼育データの収集を開始しており、得られたデータを養殖業者と共有し活用することでハコスチの生産量増大を図る必要があります。

(蚕糸園芸課水産係 神澤裕平)

【試験研究から】利根川で釣れる大型ヤマメはサクラマスなのか?

はじめに

 利根川で釣れる大型ヤマメは釣りの対象魚として人気がありますが、今までは降海型のサクラマスなのか?河川残留型のヤマメなのか?判別することができませんでした。
近年、耳石(魚の頭部にある小さな骨)の微量元素を分析することで降海型魚類の回遊履歴を調べることが可能になりました。水産試験場では2013年に利根川の坂東堰付近で採集した大型ヤマメ4尾について判別を行い、4尾がサクラマスであることを明らかにしました。今回は、大型ヤマメについてさらなる知見を得るため、利根川で範囲を拡大して大型ヤマメを採集し、判別を行うことにしました。

供試魚と分析方法

 利根川上流域で堰堤を境界として4つの採集区間を設定し、2014年から2016年にかけて利根川で採集した大型ヤマメ35尾と、対照として水産試験場川場養魚センターで採集した養殖ヤマメ2尾の計37尾を供試魚としました。
 供試魚の魚体測定を行った後、耳石の核から縁辺部までのSr(ストロンチウム)とCa(カルシウム)濃度を線分析しました。

結果および考察

1 サクラマスとヤマメの判別

 海水は淡水よりもSr濃度が高いことから、大型ヤマメ35検体のうち、Sr/Ca比が上昇した24検体がサクラマスで、Sr/Ca比が変化しなかった11検体がヤマメと推定されました(図)。対照となる養殖ヤマメは2尾ともSr/Ca比に変化が確認されませんでした。

2 サクラマスの遡上範囲

 利根川の後閑駅付近で採集された検体がサクラマスであると推定され、かつ、4つの採集区間全てでサクラマスと推定される検体を確認したことから、サクラマスは後閑駅付近まで利根川を遡上することが可能と考えられました。

3 魚体サイズ(全長)

 サクラマスのほうがヤマメよりも全長が大きい個体が多く、全長35~40cmくらいがサクラマスとヤマメを区分する際の目安の長さになると考えられました。

サクラマスとヤマメのSr/Ca比の折れ線グラフ
図 サクラマスとヤマメのSr/Ca比

(川場養魚センター 松原利光)

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