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水試だより51号

更新日:2019年8月23日 印刷ページ表示

群馬県水産業の発展に向けた水産試験場の取り組み

水産試験場 場長 原田 昌季

 このたび、水産試験場長を拝命いたしました原田と申します。微力ではありますが、しっかりと職責を果たしていきたいと考えておりますので、皆様の御指導、御協力をお願い申し上げます。
 水産試験場では、地域の活性化にも繋がり特色のあるニジマス「ギンヒカリ」「ハコスチ」のさらなる品質の向上、県の魚「アユ」の漁獲量復活を目指した優良種苗の供給と冷水病の対策、また、放射性物質の影響に関する研究等に継続して取り組んでいます。
さらに、河川環境の改善に向けた調査研究や内水面漁業全般の普及活動等多岐に渡る業務を行っております。
この中で、主となる取り組みをご紹介いたします。

食用大型ニジマス「ギンヒカリ」

 なんといっても肉質が自慢の3年成熟系のニジマスです。養殖環境に左右されずに未成熟が維持できる2年成熟率の低いギンヒカリを育成します。

遊漁用ニジマス「ハコスチ」

 姿形が良く引きが強いため釣り人に大人気となっています。このブランド力維持のため、品質の維持向上と優良種苗の安定供給に努めていきます。

アユ冷水病対策と江戸川系アユ

 漁協等関係機関の協力を得ながら、放流前アユの冷水病保菌検査を行っています。さらに本検査を徹底し冷水病のまん延を防止します。
 また、江戸川(旧利根川)で獲れたアユに冷水病菌を感染させて生き残ったものを親魚とした、冷水病に強い「江戸川系」アユの安定生産・供給を図ります。
 さらに、東京海洋大学との共同研究により冷水病ワクチンの開発を進めます。

ワカサギの増殖

 ワカサギの卵は、多くが県外から移入されていますが、県内の湖沼から採卵し、自然条件で安定的にふ化させる技術の開発に取り組みます。

水圏生態系における放射性セシウム動態解析

 赤城大沼と榛名湖では、ワカサギの放射性セシウム濃度は低くなり、現在では持ち帰りも可能となっています。そのメカニズムを詳しく知るため、水圏生態系内の動態調査を引き続き行います。

 この他、河川湖沼における様々な課題がまだまだありますが、職員一同全力で取り組みますので、皆様の御協力を重ねてお願いいたします。

場長写真

渓流魚の効果的な増殖方法

はじめに

 河川上流に生息する渓流魚は、遊漁対象として人気があり、漁業協同組合により資源の増殖が行われており、群馬県では稚魚放流が主な方法です。しかしながら近年、渓流魚における稚魚放流の効果が疑問視されてきました。そのため、群馬県ではより効果的な増殖手法の開発に取り組んでいます。
 過去の研究において、河川の生息場所に先住している渓流魚は、後に侵入してきた個体よりも同じ生息場所に残存しやすい傾向があると明らかになっています。したがって、稚魚放流についても、放流された稚魚が先住魚(野生魚や以前の放流魚)の影響を受けている可能性があります。そこで今回、人工水路を用いてヤマメの先住効果の定量的な評価を試みたので報告します。

試験研究の具体的内容と結果

1 方法

 供試魚には、先住魚と放流魚共に2017年10月に川場養魚センターで作出したヤマメの0歳稚魚を用いました。
ポリエチレン製U字溝と水中ポンプを用いて、幅0.45メートル、長さ8.3メートル、勾配10%の流水式人工水路を川場養魚センターの屋外に設置しました。発泡スチロール建材を堰板に用いて長さ約1メートルずつのプールに区切り、上から順に1区、2区…7区としました(図1)。7区の下には生け簀を設置し、水路から移出した供試魚を保持できるようにしました。試験用水には、川場養魚センターの湧水(水温:約12.0度)を使用し、水中ポンプで毎秒3.38 リットルの湧水を1区の上流に導入しました。
 試験の1日目は7区の下を網で区切り、水路から供試魚が移出しない状態にしました。11時00分に先住魚を各区に1尾ずつ投入しました。2日目の11時00分に放流魚を各区に1尾ずつ投入後、7区の下の網を取り外し、水路から供試魚が移出できるようにしました。3日目の11時00分に全ての試験魚を取り揚げました。

2 結果と考察

 先住魚と放流魚の標準体長と水路内残存確率の関係を図2に示します。先住効果と標準体長が1センチメートル大きくなったときの水路内残存確率はそれぞれ3.11倍、2.69倍になると推定されました。したがって、ヤマメの先住魚は同じサイズの放流魚よりも残存性が約3倍高く、一方、放流魚のサイズが先住魚よりも10%以上大きくなると、先住魚は放流魚よりも残存性が低くなる可能性があることがわかりました。

現場での活用

 放流魚が先住魚よりも10%以上大きく、かつ放流場所の先住魚の密度が高い場合、貴重な先住魚が放流の影響で漁場から移出してしまい、「放流したのにそれほど魚が増えない」という事態になってしまう可能性があります。したがって、稚魚放流を行う場合には、放流魚のサイズが先住魚よりも大きくなりすぎないように調整したり、先住魚が少ない場所に放流したりすることが、稚魚放流の効果を高めるには不可欠と考えられます。

(川場養魚センター 山下耕憲)

図1人工水路の概要図の画像
図1 人工水路の概要図

図2水路内残存確率の推定曲線のグラフ画像
図2 水路内残存確率の推定曲線

「ギンヒカリ」と「ハコスチ」のブランド化への取り組み

はじめに

本県は都心からアクセスがよく、観光客等から地元食材が求められています。さらに、マス類管理釣り場数も多く、これらのニーズに応じた付加価値の高いオリジナルの魚を提供することで販路拡大が期待できます。
県では、食用ニジマスとして「ギンヒカリ」、遊漁用ニジマスとして「ハコスチ」を開発して、ブランド化を進めており、その取り組みについて報告します。

概要

1 ブランド保護

ギンヒカリは平成14年、ハコスチは平成28年にそれぞれ県が商標登録しました。

2 PR活動

(1)ギンヒカリ

県がパンフレットやのぼり旗等、県と群馬県養鱒漁業協同組合(以下「養鱒組合」)が「ぐんまちゃん」を起用したポスター等を作製しました。

(2)ハコスチ

県が動画やポスター等を作製した他、体験ルアー釣り教室や体感会を開催しました。また、養鱒組合が「いい引き」の語呂に合わせて、毎年11月19日をハコスチの日と定めました。

3 品質規格

(1)ギンヒカリ

養鱒組合ギンヒカリ部会では、魚体重1キログラム以上でアスタキサンチンを主体とした色揚げ飼料を3か月以上与える等の一定基準を満たしたものをギンヒカリとしています。

(2)ハコスチ

養鱒組合ハコスチ部会では、遊漁用としての取り扱いは魚体重300グラム以上と定めています。さらに、品質低下を防止するため、ハコスチの名称利用期限を釣場に放流してから1か月以内としています。

今後の課題

ギンヒカリの年間生産量は近年30トンを超えていましたが、平成29年は30トンを下回りました(図)。安定生産するには更なる種苗の品質と生産効率の向上等が必要となります。
ハコスチは、今後、需要増が見込まれています。現在、県では、飼育条件の異なる養魚場において飼育データを収集しており、得られたデータを養殖業者と解析し、生産量増大に活用します。また、PR等を継続し、釣場の拡大を図る必要もあります。

(蚕糸園芸課水産係 鈴木究真)

図ギンヒカリの生産量のグラフ画像
図 ギンヒカリの生産量

利根川遡上サケの年齢組成

はじめに

 利根川は、本州の太平洋側におけるサケの遡上・産卵がみられる南限です。また、利根川を遡上するサケは、北海道や東北の河川に遡上するサケと比較して遡上距離が長く、河口から200キロメートルも遡上することがあります。ゆえに利根川遡上サケは学術的にとても重要であるといえますが、研究例はほとんどありません。そこで、利根川遡上サケについての基礎データ収集を目的として、回帰魚の年齢組成を調査しました。
なお、本研究では、一般にサケ・マス類で行われる年齢査定と同様に、鱗に形成された年輪数から年齢を査定しました(図)。

試験研究の具体的内容と結果

1 材料と方法

 対象は2017年11月15日と2018年11月14日に利根大堰(群馬県千代田町・埼玉県行田市)で採捕され、採卵および採精に用いた個体です。全長、尾叉長、体長および体重を計測し、年齢査定用に鱗を5枚程度採取しました。鱗に付着した粘膜やゴミを取り除き、実体顕微鏡下(15倍)で年輪数を計測して個体の年齢を査定しました。

2 結果および考察

 2017年、2018年ともに、割合が最も多かったのは4年魚でした。本研究と同様に、2003年、2004年の水資源機構利根導水総合事業所による調査においても、遡上期間を通じて4年魚の割合が最も多いという結果が得られています。また、体サイズ(体長や体重)についても、本研究の結果と2003年、2004年の調査結果との間で大きく異なる点はありませんでした。
 今回得たデータは過去2か年のみのものですが、現在の利根川遡上サケの年齢組成や体サイズは、2003年、2004年と同じ傾向にあることが示されました。

現場での活用

 近年は全国的にサケの来遊数が減少傾向にあり、利根大堰におけるサケの遡上数も減少しています。その原因として、降海時の沿岸海水温の低下などによる幼稚魚の減耗が考えられていますが、詳しいメカニズムは明らかになっていません。
回帰魚の年齢組成は、サケ資源の状態を把握する上で重要なデータの一つです。利根川サケの持続的な回帰に向け、回帰魚に関する基礎データの収集は継続して行う必要があります。

(生産技術係 阿久津 崇)

図サケの鱗(顕微鏡下で撮影)の画像
図 サケの鱗(顕微鏡下で撮影)*矢印は年輪を示す

平成31年度職員の配置(平成31年4月1日現在)

  • 場長 原田昌季
  • 次長(総務係長) 石山貴浩
  • 主席研究員 久下敏宏
  • 総 務 係 係長(次長兼務)、北野洋一、富山摂子
  • 水産環境係 係長 新井肇、神澤裕平、鈴木紘子、渡辺峻
  • 生産技術係 係長 田中英樹、垣田誉志史、清水延浩、湯浅由美、阿久津崇
  • 川場養魚センター センター長 小西浩司、松原利光、星野勝弘、山下耕憲

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