ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 組織からさがす > 農政部 > 水産試験場 > 水試だより53号

本文

水試だより53号

更新日:2021年7月7日 印刷ページ表示

負けないぞ!「群馬の水産」

 新年度が始まりました。例年であれば、新たな希望に満ちた気持ちで目標に向かって業務に取り組もうとする時期です。しかし、新型コロナウイルス感染症が拡大して1年余り。ワクチン接種も始まっていますが、私たちの生活は従来から大きく様変わりし、未だに多くの産業に影響を与え、先の見えない不安定な社会情勢が続いています。恵まれた自然環境のもと、観光業を拠り所としてきた、本県の水産業も大きな痛手を受けています。
 私が入庁してから早30年近くが経ちます。この間、県内水産業はアユ冷水病とコイヘルペス病の蔓延、カワウによる食害、コクチバスの生息域拡大、東日本大震災に伴う放射性物質の降下を始め、多くの問題に見舞われてきました。
 水産試験場ではこれらの問題に対して、関係者のご協力のもと、研究と調査を実施するとともに対策を講じてきました。もちろん、全てが解決された訳ではなく、未だに積み残された問題もあり、継続して取り組んでいます。ただ、これまでと異なり、新型コロナウイルスの問題の根本的な解決に関しては、残念ながら水産試験場の試験研究では、為す術がなく、水産業の持続的な発展の難しさをあらためて痛感しています。
 とは言え、手をこまねいてばかりではいられません。釣り場では安心して釣りができるよう、現場でのコロナウイルス感染防止対策の周知・徹底を図ることはもとより、特に養鱒業界では観光地や飲食店に依存しない販路開拓にあらためて着手しています。水産行政サイドも知恵を絞り、養殖生産者や漁協の方々をサポートする事業の導入に積極的に取り組んでいます。水産試験場でも、「開疎」な水辺空間を十分に活用するための試験研究や養殖魚の高付加価値化などに取り組んでいきます。
 このように、私たちは新たな人の流れや生活様式に合わせた対応を余儀なくされています。一方、人々の生活に対する価値観が変わる中、豊かな自然と水環境に恵まれた本県の風土と地域資源を活用する「開疎」な空間には、多くの魅力と可能性が秘められています。
微力ではありますが、コロナ禍に負けないよう、しっかりと水産振興を図っていきたいと考えておりますので、皆様の御指導、御協力をお願い申し上げます。

(川場養魚センター長 田中 英樹)

【特集】戻し交配による新たなアユ系統の開発

はじめに

 群馬県のアユ漁獲量は、かつては669トン(1980年)ほどあったものの、冷水病やカワウによる食害、河川環境の変化などにより、近年では50トン程度となっています。水産試験場では冷水病による漁獲量減少を防止するため、海から江戸川に遡上してきたアユを親魚として養成し、2011年に「江戸川系」を開発しました。
江戸川系は、冷水病を人為的に感染させて生残したアユを親魚として開発した系統のため、冷水病耐性の高い優れた系統です。しかし、開発から10年が経過しており、飼育はしやすいものの種苗性(遡上性、冷水病耐性)と遺伝的多様性の低下が懸念されます。そこで、さらに種苗性の高い系統を供給するため、水産試験場では、戻し交配により新たなアユ系統を開発することにしました。

新たな系統の開発の流れ

1 天然遡上アユの親魚養成

 3月下旬から4月上旬に海から遡上してきたアユを江戸川で採捕し、水産試験場に輸送しました(写真)。このアユは冷水病に感染している可能性があるため、抗菌剤を用いて体内からの冷水病菌などの魚病細菌の除菌を行った後、親魚に養成します。

2 交配による新たな系統の作出

 天然遡上アユは、場内で継代飼育している江戸川系と成熟時期が異なる可能性が高いため、江戸川系と同時期に電照を行い、成熟時期を調整します。
成熟時期になったら、江戸川系の雌と、天然遡上アユの雄を交配し新たな系統を作出します(図)。

3 作出した系統の生産・飼育特性の把握

 作出した系統の生産を試みるとともに、飼育特性(成長速度、飼料効率、生残率など)を把握します。

新たな系統の特徴

1 性質

 遡上性、冷水病耐性が高く、飼育しやすい性質を持つと考えられます。

2 供給までに要する時間

 飼育しやすい江戸川系を親魚の雌として用いるため、比較的早く漁業協同組合などに供給することができると考えられます。

今後に向けて

 水産試験場では、今回紹介した新たなアユ系統の開発を含め、種苗性の高い高品質なアユを供給できるよう日々の研究および業務に取り組んでいます。今後とも水産試験場で生産したアユをご利用いただきますよう、お願いいたします。

(生産技術係 松原 利光)

江戸川で採捕したアユの画像
写真 江戸川で採捕したアユ

新たな系統の作出方法の画像
図 新たな系統の作出方法

【水産行政から】群馬県水産振興計画を策定しました

はじめに

 群馬県の水産業は河川・湖沼で行われている釣りを中心とした漁業と河川水や湧水を引き込んだ飼育池、ため池などを利用した養殖業に分けられます。しかしながら、河川・湖沼における魚類の生息環境の悪化、カワウやコクチバスによる食害、県民の魚離れによる水産物の消費低迷により、本県水産業は、非常に厳しい状況に置かれています。
そこで、本県の河川・湖沼漁業における資源の維持増大、利活用の促進に関する施策、漁場環境に関する施策および養殖業に関する施策を実施するため、「群馬県水産振興計画」を策定しました。

群馬県水産振興計画の構成

1 位置づけ

 本計画は、「内水面漁業の振興に関する法律」第10条第1項に基づく都道府県計画および「群馬県農業農村振興計画」の水産についての部門計画に位置付けられています。

2 計画の構成

 本計画は、「基本的な方向」、「本県水産業に関する状況」、「河川・湖沼漁業の課題と振興方針」、「養殖業の課題と振興方針」、「河川・湖沼漁業と養殖業に共通の課題と振興方針」、「推進体制」で構成されています。

群馬県水産振興計画の主な振興方針

1 漁業協同組合

 河川・湖沼漁業の主体となる漁業協同組合ですが、組合員や釣り人の減少により、経営規模が縮小傾向にあります。しかし、漁業協同組合は、増殖事業などの漁場管理を行い、水辺環境の理解促進を図るとともに、釣り人養成のために釣り教室を実施しています。
 そこで、これらの事業を効率的かつ効果的に実施し、その活動成果を広報することで、組合加入の促進を図ります。

2 遊漁

 遊漁は対象魚や釣り方が多様化しています。このような遊漁形態の多様化に対応するため、釣り場のゾーニング管理を推進するとともに、インターネットを利用した遊漁券の販売や釣り桟橋などの施設の設置を促進します。また、釣り場での規則やマナーを周知し、多くの人が楽しく釣りのできる環境づくりを推進します。

3 漁場環境

 河川横断施設による流路の分断、集中豪雨による河川・湖沼の濁水発生などにより、魚が住みづらい環境になっています。そこで、河川横断施設への魚道の設置や改良を河川管理者と連携し、魚類などが住みやすい環境へ保全していくことを推進します。

4 外来魚、カワウ

 漁業資源を中心に食害があるコクチバスやカワウの被害防除対策を漁業協同組合、県、市町村などの関係機関と連携して推進します。また、このほかにも漁業被害が懸念される生物の状況を調査し、防除対策を検討します。

5 養殖業

 養殖では食の多様化により生産量が低迷している魚種があることから、消費者ニーズを把握し、業界と連携して新たな地域特産品の開発などにより消費拡大を図る必要があります。また、県のブランド魚である「ギンヒカリ」や「ハコスチ」の生産振興を図り、「ギンヒカリ」では令和7年までに生産量40トン、「ハコスチ」では30トンを目指します。

まとめ

 本県の水産業を振興していくためには、関係各位の協力が不可欠です。今後、互いに連携し、様々な施策を推進していきたいので、よろしくお願いします。

※群馬県水産振興計画
​https://www.pref.gunma.jp/06/f2200191.html

(蚕糸園芸課水産係 小林 保博)

【試験研究から】イワナの半天然魚と継代養殖魚の移動性

はじめに

 県内の河川では、イワナやヤマメといった渓流魚の増殖のため、稚魚の放流が行われています。近年、イワナの継代養殖魚のメスと、天然魚(在来個体群)のオスを交配させた系統である半天然魚は、一般的に放流に用いられる継代養殖魚よりも放流後の生残率が高いことが明らかになりました。しかし、この生残率が高くなる要因については明らかになっていませんでした。そこで、イワナの半天然魚と継代養殖魚の行動特性を比較するため、人工水路(図1)を用いて移動性の違いを検討しました。

試験研究の具体的内容と結果

1 材料と方法

 人工水路は、自然の河川を想定し、清水時と、大雨や河川工事を想定した濁水時の2通りの条件を設定しました。イワナの半天然魚と継代養殖魚の稚魚を30尾ずつ人工水路の5に放流し、5時間後に水路の1~3(上流区)、4~6(中流区)および7~9(下流区)にいたイワナ尾数を計数しました。

2 結果および考察

 半天然魚は継代養殖魚よりも上流に移動する傾向が強いことが示されました(図2)。また、系統に関わらず、イワナの稚魚は清水時よりも濁水時に流下しやすいことが明らかになりました。
 これらのことから、イワナの半天然魚は放流後に流下しにくいことがわかりました。また、イワナを放流する際にはなるべく濁水時を避けた方が良いと考えられました。

現場での活用

 濁水による稚魚の流下を避け、より効果的なイワナの放流を行うためには、放流地点付近の環境条件(河川の濁水の出やすさ、上流での河川工事、流下後の再遡上を妨げる堰堤やダムの存在)の確認、堰堤やダム、河川工事の管理者との事前調整、放流日前後の天候の確認、および通常の継代養殖魚の代替としての半天然魚の放流などを検討することが必要です。

(川場養魚センター 山下 耕憲)

人工水路の概要図の画像
図1 人工水路の概要図

濁水時における各系統のイワナの尾数の画像
図2 濁水時における各系統のイワナの尾数

水産試験場トップページへ戻る