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タナゴ類
単に「タナゴ」と言うと、コイ科に属し、一見フナに似ていますが、体幅が著しく狭い小さな淡水魚の総称(以下タナゴ類と言う)で、日本では15種類が知られています。
タナゴ類の大きな特徴は、すべて二枚貝の中に産卵するということです。雌は尻ビレの前から長い産卵管をのばし、生きている二枚貝の水管にそれを差し込んで産卵します。こうして産卵された卵は堅い殻を持った二枚貝の体内で、自力で泳げるようになるまで外敵から守られます。この生態は一見賢い選択に思えますが、逆に二枚貝がいなくなれば繁殖できないという欠点を持っています。
雄は赤、青、黄色のきれいな体色をしており、美しい小さな淡水魚として珍重されています。雌はこのきれいな模様がないことから、別の種類と間違われることもあります。
本県では、昭和20年ごろまでは東毛地区を中心にミヤコタナゴ、ゼニタナゴ、ヤリタナゴ、タナゴ、アカヒレタビラの5種の生息が確認されていました。しかし、現在ではミヤコタナゴ、ゼニタナゴ、タナゴ及びアカヒレタビラの4種は、県内ではすでに絶滅し、ヤリタナゴが県内に生息する唯一の在来種のタナゴ類になってしまいました。したがって、現在見られるのはヤリタナゴと外来種のタイリクバラタナゴの2種だけとなっています。
タナゴ類の減少の原因として考えられることは、水質の悪化が挙げられますが、カラスガイ、ドブガイ、イシガイなど、淡水産の二枚貝の生息がなければ繁殖できないので、水底に住むこれら貝類の減少も考慮しなければなりません。また、タイリクバラタナゴは繁殖力が旺盛で、卵を産みつける二枚貝を独占してしまうことにより、他のタナゴ類が繁殖を抑えられてしまうということも考えられます。
ミヤコタナゴは、国指定の天然記念物になっています。ミヤコタナゴはマツカサガイという特定の二枚貝にしか産卵しないといわれており、絶滅の直接の原因はこのマツカサガイがいなくなったことによるものかもしれません。
私たちは、普段は目立たないが、川遊びなどのときに発見し、小さな喜びを与えてくれるこれらの美しい小魚たちが繁殖できる環境づくりを真剣に考えていかなければなりません。