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利根下流地域森林計画書<計画の大綱>
本計画は、森林法(昭和26年法律第249号)第5条に基づき、全国森林計画に即して地域森林計画の対象とする森林について必要な事項の検討を行い、地域の状況、過去の実績等を勘案して樹立した地域森林計画です。この計画の計画期間は、令和4年4月1日から令和14年3月31日の10年間です。
1 森林計画区の概況
利根下流森林計画区は、経済圏や地形の特性から、渋川市近郊地域、渡良瀬地域及び前橋・東毛地域の3つの地域に分けることができます。
渋川市近郊地域:(渋川市、榛東村、吉岡町)
主に赤城山から広がる傾斜地と榛名山から広がる傾斜地からなり、中央を南北に流れる利根川に吾妻川が合流しています。
渡良瀬地域:(桐生市、みどり市)
赤城山の東から南東、渡良瀬川の両岸に位置し、そのほとんどは山間地域ですが、南には扇状地からなる緩傾斜地が広がっています。
前橋・東毛地域:(前橋市、伊勢崎市、太田市、館林市、玉村町、板倉町、明和町、千代田町、大泉町、邑楽町)
赤城山の南側に広がる傾斜地とここから利根川に至る平坦地及び県東部の関東平野の一部である平坦地からなっています。
(1) 自然的背景
ア 地勢
本森林計画区は、県の中央部から南東部に位置し、南は埼玉県、東は栃木県に接しており、7市7町1村からなっています。総面積は161,721ヘクタールで、県総面積の25%を占めています。
本森林計画区の北部には、北側に榛名山(掃部ヶ岳:1,449メートル)、小野子山(1,208メートル)、子持山(1,296メートル)、赤城山(黒檜山:1,828メートル)、袈裟丸山(前袈裟丸山:1,961メートル)、根本山(1,199メートル)等の山々があり、西側を利根川、東側を渡良瀬川が南へ流れています。南部は南東へ流れる利根川と渡良瀬川に挟まれた平坦地です。全般的には北部は中間農業地域・山間農業地域であり、南部は関東平野の一部をなす都市・田園地帯といえます。
イ 地質及び土壌・植生
地質:渋川市近郊地域は、榛名山、小野子山、子持山、赤城山といった第四紀火山及びその火山噴出物からなっています。渡良瀬地域北部は、足尾山地の南端で秩父中・古生層に属する砂岩、粘板岩、チャート、輝緑凝灰岩及び石灰岩が分布しており、草木ダム周辺には花崗岩体が貫入し、地蔵岳・三境山頂部には例外的に新第三紀の溶結凝灰岩が堆積しています。渡良瀬地域南部及び前橋・東毛地域は、泥流堆積物からなる前橋台地、砂礫の上部にローム層が発達した大間々扇状地、利根川や渡良瀬川による河川堆積物からなっています。
土壌:渋川市近郊地域は、粗粒火山噴出物未成熟土及び黒ボク土壌が主体ですが、小野子山や子持山周辺には褐色森林土壌が分布しています。渡良瀬地域北部は、主に褐色森林土壌ですが、赤城山麓に一部黒ボク土壌が分布しています。渡良瀬地域南部及び前橋・東毛地域は、火山灰を母材とする粗粒淡色黒ボク土壌及び灰色低地土壌が分布しています。
植生:本森林計画区は太平洋型植生域に属します。標高450~600メートル以下の地域はヤブツバキクラス域で本来常緑広葉樹林帯に属しますが、原植生はほとんど失われ、クヌギ、コナラ、クリなどの二次林やスギ、ヒノキ、アカマツ、クロマツなどの造林地となっています。その上部で標高1,500メートルまではブナクラス域で本来ブナ林が広く分布していたと考えられますが、この地帯でも原植生はほとんど失われ、スギ、ヒノキ、カラマツの造林地やクリ、コナラ、ミズナラの二次林となっています。標高1,500メートル以上の地帯では、ダケカンバ主体の植生となっていますが、赤城山の鈴ヶ岳、袈裟丸山には一部亜高山性針葉樹林が分布しています。
(2) 社会経済的背景
ア 地域経済圏の概況
本森林計画区は、人口と産業が集中する平野部と人口減少、高齢化が進む山間部を併せ持っています。
イ 産業
渋川市近郊地域は、渋川市を中心に古くから交通の要衝として栄え、利根川の豊富な水を活かして工業が発展しました。南部平坦地から北部山間地にかけては米麦、野菜、果樹、畜産など変化に富んだ農業が展開されています。また、伊香保温泉、赤城山、榛名山をはじめとする観光資源に恵まれており、観光業が基幹産業の一つとなっています。
渡良瀬地域は、養蚕や織物により発展してきましたが、近年は機械金属工業が集積して基幹産業となっています。農業は野菜、果樹、花き、畜産等を中心に活発に行われており、山間地は古くから林業が盛んで充実した森林資源を擁しています。
前橋・東毛地域は、北関東有数の工業製品出荷額を誇る太田市をはじめ、産業の集積度が高く、ものづくりと物流の拠点として高い地位を築いており、北関東自動車道の全線開通により一層の発展が期待されています。また、耕地面積が広く、米や野菜などの農業生産も活発な地域です。
ウ 人口の状況
本森林計画区の人口は、1,259,495人(令和3年1月1日・住民基本台帳)で県人口の64%を占めており、平成28年と比べると横ばいとなっています。
渋川市近郊地域の人口は、112,243人で県人口の6%、人口密度は389人/平方キロメートルと県全体の308人/平方キロメートルより3割ほど高くなっています。地域全体では平成28年から3.5%減少していますが、吉岡町では5.1%増加しています。
渡良瀬地域の人口は、158,516人で県人口の8%、人口密度は328人/平方キロメートルです。平成28年からみどり市で3.1%減少し、桐生市では7.4%減少しています。
前橋・東毛地域の人口は、988,736人で県全体の約半分の50.5%を占め、人口密度は1,169人/平方キロメートルと本森林計画区内では最も密度が高い地域です。人口は平成28年に較べ、伊勢崎市で0.7%、太田市で0.6%それぞれ増加し、地域全体では0.7%減少しています。
エ 林業の概況
渋川市近郊地域の森林は、民有林11,000ヘクタール(81%)、国有林3,000ヘクタール(19%)からなり、国有林は主に渋川市の北部に分布しています。民有林の蓄積は4,406,000立方メートル、ヘクタール当たり385立方メートルで県内中位にあり、間伐、保育を必要とする林分がほとんどを占めています。民有林の人工林率は67%で県平均48%を大きく上回っており、赤城山麓の周辺はマツ、北部から西部にかけてはスギを中心とした森林構成となっています。都市近郊に位置し火山灰地帯であることから、保安林が多く、治山事業も積極的に行われています。また、古くから林業用苗木生産が盛んで、県全体の79%を生産しています。令和2年度末の素材生産業者数は7で、令和2年次の民有林素材生産量は10,000立方メートルです。また、平成22年度には群馬県森林組合連合会が運営する渋川県産材センターが完成し、原木の全量・定額買い取りを行っており、県産材有効利用の拠点施設として稼働しています。特用林産物については、主に生シイタケ、マイタケ、ブナシメジが生産されています。
渡良瀬地域においては、民有林29,000ヘクタール(81%)、国有林7,000ヘクタール(19%)からなっており、国有林は主に桐生市北部に分布しています。民有林の蓄積は10,021,000立方メートル、ヘクタール当たり341立方メートルです。民有林の人工林率は県平均より若干高い54%で、赤城山南麓はマツ林が多くなっています。渡良瀬川及び桐生川流域は古くから林業生産活動が活発であり、古生層地帯に成立した人工林を基盤として県内でも屈指の優良材生産地帯を形成しています。素材生産業者数は19で、民有林素材生産量は27,000立方メートルです。原木市場が桐生市に1箇所ありますが取扱量は比較的少ない状況です。また、平成27年度にはわたらせ森林組合が運営する地域材加工センターが完成し、地域材の加工拠点として、地域の林業の活性化に期待が寄せられています。特用林産物は主に生シイタケが生産されています。
前橋・東毛地域は、民有林7,000ヘクタール(88%)、国有林1,000ヘクタール(12%)です。総面積85,000ヘクタールのうち林野面積は8,400ヘクタールで、林野率は10%と県内では最も森林の少ない平坦地域です。素材生産業者数は7と少なく、素材生産量も6,000立方メートルと少ない地域ですが、前橋市に県内2番目の取扱量の原木市場があります。特用林産物については、生シイタケ、マイタケ、ブナシメジの生産量が多く、特にマイタケは県内の1割、ブナシメジは県内の7割を生産しています。
オ 森林組合の現況
渋川市近郊地域においては、地域内全市町村を区域とする渋川広域森林組合が活動しており、組合員数は2,243人、組合員所有森林面積は7,889ヘクタールです。作業班員数は12人で、その半数近くの7人が39歳未満です。造林・保育等の森林造成事業を主体として活動していましたが、近年では高性能林業機械を導入するなど林産事業が盛んに行われています。
渡良瀬地域においては2つの広域組合があり、桐生広域森林組合とわたらせ森林組合が2市を2分した区域でそれぞれ活動しています。組合員数はそれぞれ967人、726人で、組合員所有森林面積は8,400ヘクタール、14,392ヘクタールです。作業班員数については、20人、19人で、桐生広域森林組合では、その半数近くの9人が60歳以上であり、わたらせ森林組合では、39歳未満が約三分の一の6人となっています。事業については、両組合とも森林造成・林産・購買事業と比較的活発に活動しており、以前から木材加工に取り組んでいるわたらせ森林組合においては、平成27年度に地域材加工センターが竣工しました。
前橋・東毛地域は、前橋市を区域とする赤城南麓森林組合が活動しています。組合員数は1,457人で、組合員所有森林面積は2,892ヘクタールです。作業班員数は9人で、約半数の5人が40歳未満となっています。事業については、造林・保育等の森林造成事業を主に活動していますが、近年では林産事業にも積極的に取り組んでいます。
2 前計画の実行結果の概要及びその評価
前計画における前半5カ年分の実行結果の概要及びその評価は次のとおりです。
伐採立木材積については、主伐は計画210,000立方メートルに対して実行195,000立方メートル(実行歩合93%)、間伐は計画390,000立方メートルに対して実行278,000立方メートル(実行歩合71%)でした。また、間伐面積については、計画が4,880ヘクタールに対して実行が2,584ヘクタール(実行歩合53%)でした。間伐の面積の実行歩合は53%と低めでしたが、高蓄積の林分の伐採が多かったため、伐採立木材積では実行歩合71%となりました。
人工造林の面積については、計画580ヘクタールに対して実行234ヘクタール(実行歩合40%)、天然更新の面積については、計画310ヘクタールに対して実行226ヘクタール(実行歩合73%)でした。人工林の伐採の実行歩合は比較的高かったもの、面積あたりの蓄積が多い高齢級の森林の伐採が多かったことから、伐採面積が少なく、更新の面積も少なかったものと推測されます。
林道の開設及び拡張については、開設は計画19.1キロメートルに対して7.4キロメートル(実行歩合39%)、拡張は計画50.2キロメートルに対して14.8キロメートル(実行歩合29%)でした。近年の集中豪雨等による災害への対応や、森林所有者の不在村化等により用地取得交渉に時間を要する箇所があり、進捗が遅れたものと思われます。
保安林の整備については、水源の涵(かん)養のための保安林は計画122ヘクタールに対して実行17ヘクタール(実行歩合14%)、災害防備のための保安林は計画257ヘクタールに対して実行293ヘクタール(実行歩合114%)、総数では実行歩合が82%に達しました。全県で見ると森林境界の不明瞭化や、森林所有者の不在村化等により、進捗が遅れていますが、当森林計画区ではほぼ順調に保安林の指定が進んでいます。
治山事業については、山地治山は計画89箇所に対して実行102箇所(実行歩合115%)、保安林整備は計画33地区に対して実行38地区(実行歩合115%)となりました。総合治山及び水源地域整備の実行歩合は100%となり、総数での実行歩合は114%となりました。近年の集中豪雨等による災害への対応により実行が計画を上回ったものです。
※実行結果の詳細は(附)参考資料 4 前期計画の実行状況(過去5年間)を参照
3 計画樹立に当たっての基本的な考え方
森林は、県土の保全、水源の涵(かん)養及び地球温暖化防止等の多面的機能の発揮を通じて、県民が安全で安心して暮らせる社会の実現や、木材等の林産物の供給源として地域の経済活動と深く結びついています。
とりわけ、本県の森林は、戦後に積極的に造成された人工林を主体に蓄積が年々増加しており、今後多くの人工林が利用期を迎えつつあります。これらの森林資源を有効に利用しながら森林の有する多面的機能の持続的な発揮を図るため、森林の現況、自然条件及び県民のニーズ等を踏まえつつ、施業方法を適切に選択し、計画的に森林の整備及び保全を進めながら、望ましい森林の姿を目指すことが重要です。
その際、全ての森林は多種多様な生物の生育・生息の場として生物多様性の保全に寄与していることを踏まえ、一定の広がりにおいてその土地固有の自然条件に適した様々な生育段階や樹種から構成される森林がバランス良く配置されることが望まれます。
この計画においては、このような考え方に即し、森林の整備及び保全の目標、森林施業、林道の開設、森林の土地の保全、保安施設等に関する事項を明らかにするものです。