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昨今、国内外で生物多様性・自然資本とビジネスの関係性についてのルール作りが活発化しており、企業にはそれらを踏まえた取組とその開示が求められています。ここでは、ネイチャーポジティブの実現に向けた国内外の動向を紹介した上で、企業に求められる取組や群馬県の今後の展望について解説します。
私たちの経済や社会は、生物・非生物を含めた自然界で形成される資本に依存しています。その分、ビジネスが自然に与える影響は年々深刻化してきており、生物多様性の損失や自然資本の劣化は、経済・社会活動のリスクを高め、不確実性を増大させるとともに、レジリエンス(回復力)を低下させる要因になっています。
したがって、持続可能な事業活動を実現する上で、自然資本及び生物多様性の保全への取組が欠かせません。これらを踏まえて、生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」の実現に向けた取組が求められています。
図:事業者の活動と生物多様性の関わり(出典:環境省「事業者の活動と生物多様性の関わり」を一部加工)
2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)において、2010年に採択された愛知目標の後継となる、2030年までの新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、ビジネスにおける影響評価・情報公開の促進等のターゲットが掲げられました。
ターゲットの概要はこちら:昆明・モントリオール生物多様性枠組の概要(環境省)(PDF:594KB)<外部リンク>
2023年3月31日に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」は、前述の「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を踏まえた日本の生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本的な計画です。本戦略は、生物多様性損失と気候危機という「2つの危機」に統合的に対応し、2030年までにネイチャーポジティブを実現するため、健全な生態系の確保や自然資本を活かす社会経済活動の推進を目指しています。
さらに、環境省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の連名で2024年3月に策定された「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」は、企業の事業活動に焦点を当てた国内の取組を具現化しています。本戦略では、ネイチャーポジティブの取組は企業にとって、単なるコストアップ等でなく、新たな成長機会であることを明確にし、その実践のための手法(負荷等の評価手法含む)も併せて提示されました。
図:ネイチャーポジティブへの移行のイメージ(出典:環境省「ネイチャーポジティブ経済の実現に向けて」)
これらの戦略を通じて、個々の企業がネイチャーポジティブ経営に移行し、バリューチェーンにおける負荷の最小化と製品・サービスを通じた自然への貢献の最大化が期待されています。同時に、環境省の試算によると、日本では2030年時点で47兆円/年のビジネス機会が新たに生まれると推計されており、そのうち4分の3以上(額ベース)がカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに強く関連しています。
企業が環境課題への対応を通じて競争力を向上させることは、新しい市場を創出するチャンスとして捉えることができると言えます。
国の取組の詳細はこちら: 生物多様性と経済活動(環境省)<外部リンク>
生物多様性・自然資本に関する情報開示枠組を提供する自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD: Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の情報開示フレームワークが2023年9月に公表されました。2024-2025(会計)年度において、財務諸表等に沿ったTNFD統合開示を公表予定の企業である「TNFD Adopters」リストがTNFDサイト上に更新されており、2025年5月時点で、日本企業(金融・非金融)は世界最多の160社以上に達しています。
30by30(サーティバイサーティ)とは、2021年G7サミットにおいて約束された、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標です。
図:30by30ロードマップ(出典:環境省 30by30ウェブサイト)
30by30の達成を目指すため、国立公園等の拡充のみならず、里地里山や企業林や社寺林などのように地域、企業、団体によって生物多様性の保全が図られている土地をOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)として国際データベースに登録し、その保全を促進していきます。
図:OECM認定により期待される効果(出典:環境省 30by30ウェブサイト)
また、30by30に向けた取組をオールジャパンで進めるため、環境省は、有志の企業・自治体・団体とともに、「生物多様性のための30by30アライアンス」を立ち上げています。本アライアンスでは、自然共生サイト(民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域)の認定等を促進し、積極的に情報発信することを通して、30by30目標の達成に貢献することとしています。
詳細はこちら: 30by30 ウェブサイト(環境省)<外部リンク>
環境省は、ネイチャーポジティブ経営を推進する企業とネイチャーポジティブに資する技術を有するスタートアップとのビジネスマッチングの促進のため、「ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォーム」を2024年3月に開設し、企業・団体・機関・自治体等の互助・協業の取組推進を通じて企業等の成長を促進することを目指しています。
詳細はこちら: ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォーム(環境省)<外部リンク>