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1 地方分権改革の推進について
地方分権改革は、地方自らの判断と責任による自主的・自立的行政運営を促進し、個性豊かで活力のある地域社会を実現するために不可欠である。
地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を克服するため、国を挙げた「地方創生」の取組が動き始めた中にあって、「地方創生」においても地方分権改革はその基盤となるものとされており、極めて重要なテーマとして、その着実な推進を図ることが必要である。
政府は、地方分権改革推進委員会の勧告に基づき、国と地方の協議の場に関する法律や四次にわたる一括法を成立させるとともに、新たに「提案募集方式」を導入するなど地方分権改革を進めている。
しかしながら、これまでの政府の取組は、義務付け・枠付けの見直しに際して「従うべき基準」が多用されてきたことや、国から地方への事務・権限の移譲に関してこれまで地方が強く移譲を求めてきたものの一部しか実現していないこと、「提案募集方式」による地方からの提案について実現に至らなかったものが相当数あることなど、十分とは言えない状況にある。
政府においては、国と地方の役割分担を明確にし、地方の自主性及び自立性を高めるという地方分権改革の原点に立ち、「地方分権改革の総括と展望」において改革の使命とされている「個性を活かし自立した地方をつくる」を実現するために、国から地方への事務・権限の移譲や税源移譲の実現等の更なる改革の具体化に向け、強いリーダーシップのもと、迅速かつ全力を挙げて取り組むべきである。
内閣府の「月例経済報告」では、景気は、企業部門に改善がみられるなど、緩やかな回復基調が続いているとされている。しかし、住民生活を守り、地方経済を支える地方財政は、三位一体の改革による地方交付税の削減や社会保障関係費等が増加する中にあって、消費税率10%への引上げが延期されたこともあり、依然として厳しい状況にある。このため、持続可能で安定的な財政運営ができる地方税財政制度を早急に構築することが不可欠である。
したがって、政府は今後の地方分権改革を推進するため、次の事項について特段の措置を講じられたい。
1 真の地方分権型社会の実現
(1)事務・権限の移譲
国の役割は外交・安全保障などに特化し、地方でできることは地方に移譲するという観点から、これまでの一括法等によって国から地方へ移譲される事務・権限にとどまらず、地方の意見を十分に踏まえ、これまで地方が強く求めてきたハローワークや中小企業支援に係る事務・権限などの移譲についても、積極的に取り組むこと。
特に、ハローワークの移管については、東西1箇所ずつ(埼玉県・佐賀県)のハローワーク特区の実施から3年が経過することを踏まえ、その効果等について直ちに検証を行うこと。
さらに、地方自治体の職員が、求職者情報や相談記録等を含むハローワーク職員用端末を使用できるようにするなど国と同内容の情報を利用できるように環境を整備すること。
事務・権限の移譲に当たっては、税財源を一体的に移譲し、新たに担う役割に見合う財源を、全ての地方自治体が確保できるようにすること。なお、税財源の移譲が実現するまでの間は、移譲される事務・権限に係る事業の実施に要する財源総額を、法律に基づく交付金により確実に措置すること。
また、人員の移管を伴う場合には、地方が必要とする人材の確保が可能となるよう、主体的に選考できる仕組みなどについて、地方と十分に協議を行うこと。
(2)義務付け・枠付け等の見直し
地方自治体の自由度を拡大し、地方の創意工夫を活かした住民本位の施策を推進できるようにするため、「従うべき基準」は真に必要なものに限定すること。
福祉施設に配置する職員の数、居室の面積などの既に設定された「従うべき基準」については、三次にわたる一括法の附則の規定を踏まえ、廃止又は参酌すべき基準とするよう速やかに見直すとともに、今後の見直しに当たっても、地方の裁量を許さない新たな「従うべき基準」の設定は原則行わないこと。
なお、設置基準等が条例に委任される施設等については、地方が独自に基準を策定した場合でも、国庫補助負担金や介護報酬の設定などを通じて、実質的に地方の自由度を損なうことのないよう留意すること。
また、今後の新たな義務付け・枠付けを必要最小限にするため、地方分権改革推進委員会の第3次勧告において示された、各府省における法案の立案段階での「チェックのための仕組み」を確立すること。
さらに、国が審査請求・再審査請求を受けて行う裁定的関与については、国民の権利利益を迅速かつ公正に救済する仕組みにも配慮した上で、地方分権の視点から見直すこと。
(3)「提案募集方式」による改革の推進
地方分権改革を着実に推進するという趣旨で、「提案募集方式」が昨年度導入されたが、国は、同方式を導入した後も、これまで地方が強く求めてきた地方分権改革を確実に進めるとともに、国自らが権限移譲、義務付け・枠付けの見直し等の検討を進め、更なる地方分権改革に主体的に取り組むこと。
昨年度は、地方からの提案のうち、約57%について対応する旨の方針が示されたところであるが、その中には「引き続き検討を進める」とされた提案や提案どおりの対応になっていないものも数多く含まれている。
今年度においては、制度導入の趣旨を踏まえ、提案が実現されるよう政府全体として積極的に取り組むこと。
また、昨年度の対応方針のうち、「引き続き検討を進める」とされている提案については政府全体として今後適切なフォローアップを実施すること。一方、「実現できなかったもの」とされた提案についても、検討を加えた上で再提案があったものについては、改めてその実現に向けて積極的に検討すること。
さらに、提案の対象が「地方公共団体への事務・権限の移譲」及び「地方に対する規制緩和」に限定されているが、税財源に関することも提案対象とするよう見直しを図ること。
今後の「提案募集方式」の実施に当たっては、具体的な支障事例等を基礎とするだけではなく、住民に身近な行政は地方自治体にできる限り委ね、国と地方の役割分担のあるべき姿を実現するという観点も重視すること。
(4)「国と地方の協議の場」の実効性確保
国と地方の協議に当たっては、真に国と地方が対等・協力の関係のもと、協議の対象を幅広く捉え、国は自ら、政策の企画・立案段階から積極的に地方と協議し、地方の意見を十分に反映させること。
また、協議に際しては、事前の検討期間を十分設けるほか、分科会も積極的に活用するなど、実効性のあるものとし、形式的な運用は断じて行わないこと。
(5)地方自治法の抜本改正
現行の地方自治法をはじめとする地方自治制度は、地方自治体の組織・運営の細目に至るまで規定し、事実上、国が地方行政を統制する仕組みとなっていることから、地方自治体の裁量権を広範に保障するため、地方の意見を十分に踏まえ、早急に地方自治法の抜本改正などを行うこと。
2 真の地方分権型社会にふさわしい地方税財政制度の構築
(1)分権型社会にふさわしい税財源の充実強化
地方が真に自立した安定的な財政運営を可能とする改革を実現するためには、地方が自由に使える財源を拡充することが不可欠である。現状では、地方と国の歳出比率が6対4であるのに対し、税源配分は4対6であり、仕事に見合う税源が地方に配分されていない。地方が担うべき事務と権限に見合った地方税財源の充実強化を図るため、税源の偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系の構築を図りつつ、国からの税源移譲を速やかに進めること。
この場合において、税財源の調整が優先され、税源移譲の推進が偏在是正措置という名目で地方間の水平調整に置き換えられることがないようにすること。
また、地方法人課税の偏在是正について、平成27年度与党税制改正大綱では、平成28年度以後の税制改正において具体的な結論を得るとされたところであるが、平成26年度与党税制改正大綱において、消費税率10%段階で廃止するとされている地方法人特別税及び地方法人特別譲与税は、そもそも税の受益と負担の原則に反するとともに、地方税を充実するという地方分権の基本方向にも逆行するものであるため、このような不合理な暫定措置は確実に撤廃し、地方税として復元すること。
なお、地方税財源の充実が図られるまでの間にあっても、全ての地方自治体の財政運営に支障が生じないよう、地方一般財源総額を安定的に確保すること。
併せて、ゴルフ場利用税をはじめとする地方の税源を堅持すること。
(2)社会保障関係費に係る安定財源の確保等
年金、医療、介護、子ども・子育ての社会保障4分野の充実及び安定化の財源として、平成26年4月に消費税率の3%引上げが行われ、地方分として新たに0.92%が配分された。
少子高齢化の更なる進行に伴い、社会保障関係費は今後も増大することが見込まれている。そうした中にあっても、地方が社会保障分野において担っている役割や地方単独事業の重要性を十分に踏まえ、社会保障サービスを安定的に提供していかなければならない。
このため、平成29年4月における消費税及び地方消費税率の10%への引上げの際には、地方への安定した財源配分を確実に行うこと。
また、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」に基づく改革を推進するに当たっては、今後の大幅な人口減少と少子高齢化を見据え、国民の負担の増大を抑制しつつ、持続可能な制度を実現できるよう、社会保障の機能の充実、給付の重点化、制度の運営の効率化に向けた検討を更に進めるとともに、「国と地方の協議の場」などにおいて地方と真摯な議論を行うなど、制度設計に当たっては、企画立案段階から地方の意見を十分に反映させること。
特に、国民健康保険制度の見直しについては、国民健康保険制度の基盤強化に関する国と地方の協議において、財政基盤強化のための具体的な方策が示され、平成30年度から都道府県が財政運営の責任主体とするとされたところであるが、将来にわたり持続可能な制度の確立と国民の保険料負担の平準化に向けて、引き続き地方と協議しながら様々な財政支援の方策を講じ、今後の医療費増嵩に耐えうる財政基盤の確立を図ること。その際には、新たな地方負担を前提とせず、あくまで国の責任において、全ての地方自治体に対して財源を確保すること。
(3)自動車関連諸税等の見直しへの対応
平成27年度与党税制改正大綱において、消費税率10%段階での車体課税の見直しについては、平成28年度以後の税制改正で具体的な結論を得ることとされたところであるが、自動車取得税の廃止など車体課税の抜本的な見直しに当たっては、都道府県はもとより市町村への影響が大きいことから、自動車取得税がこれまで地方の社会基盤整備などの貴重な安定財源となってきた経緯等を踏まえ、地方自治体に減収が生じることのないよう、自動車取得税の廃止と同時に、国の責任において地方税による安定的な代替財源を確保すること。
また、同大綱で森林吸収源対策及び地方の地球温暖化対策に関する財源の確保については、COP21に向けた2020年以降の温室効果ガス削減目標の設定までに具体的な姿について結論を得るとされたことを踏まえ、国税の「地球温暖化対策のための税」について、使途を森林吸収源対策にも拡大するとともに、その一部を地方税源化するなど、地方の役割等に応じた税財源を確保する仕組みを創設すること。
さらに、原油価格の異常な高騰が続いた場合の軽油引取税などの課税停止については、一定の期間、適用を停止することとされているが、今後、当該措置が適用される場合には、国の責任において全ての地方自治体に対し、確実に減収分の補填措置を行うこと。
(4)地方法人課税の堅持
地方法人課税は、法人が事業活動を通じて地方団体から享受する様々な行政サービスに対して応分の負担をするという大原則に基づくものであり、地方団体の重要な財源であることから縮減は行わないこと。
また、法人住民税の国税化は、自主財源である地方税を縮小することにほかならず、地方分権の流れに逆行することから、今後の在り方について引き続き議論し、地方分権改革に資する地方法人課税とすること。
(5)法人実効税率の見直しに伴う代替財源の確保等
平成27年度与党税制改正大綱では、法人事業税の外形標準課税の拡大等による課税ベースの拡大を行うことで財源を確保しつつ、経済の好循環の実現を力強く後押しするために、法人実効税率の引下げを先行し、平成28年度以降の税制改正においても20%台まで引き下げることを目指すとされた。
今後の税率引下げの検討に当たっては、恒久減税には恒久財源を用意するという原則に則り、地方税による代替財源を確保し、地方交付税原資の減収分も含め、全ての地方自治体の歳入に影響を与えることのないようにすること。
なお、今後、法人税改革を継続する中で、外形標準課税の適用対象法人のあり方等について検討を行うこととされたが、地域経済への影響も踏まえて、引き続き、中小法人への負担に配慮し慎重に検討すること。
また、法人実効税率の引下げに関連し、地方自治体が自らの課税自主権に基づき実施している超過課税については地方自治体の判断を尊重すること。
(6)課税自主権の拡大
地方自治体の最も基幹的な自主財源である地方税に係る課税自主権の発揮については、制度的には法定外税や超過課税等が認められているものの、実際の適用には高いハードルがある。
神奈川県臨時特例企業税条例を違法、無効とした平成25年3月の最高裁判決は、そのことを明確に示したものである。
この判決の補足意見では、地方自治体が法定外税を創設することの困難性が示され、「国政レベルにおける立法推進に努めるほかない」と指摘されたところである。
こうした指摘も踏まえ、真の地方分権型社会の実現に向けて、地方の課税自主権の拡大を制度的に保障するため、関係法令の抜本的見直しの検討を進めること。
(7)地方交付税の復元・充実及び臨時財政対策債の廃止
地方交付税については、地方固有の財源であることを明確にし、国による義務付けや政策誘導は排除すること。
また、地方が責任を持って地域経済の活性化等の施策を実施するには、基盤となる財源の確保が必要であることに加え、今後社会保障関係費の大幅な増加が見込まれることから、地方財政計画に地方の行政需要を的確に積み上げ、地方交付税本来の役割である財源調整機能と財源保障機能が適切に発揮されるよう、地方交付税総額を充実すること。
特に平成27年度予算編成の基本方針では、平成32年度の国・地方のプライマリーバランス黒字化目標を堅持し、その目標の達成に向けた具体的な計画を平成27年夏までに策定することとされており、平成28年度以降の地方財政についても厳しい議論が行われることが想定されるが、アベノミクス効果が地域の隅々にまで行き渡っていないことを踏まえ、歳出特別枠及びそれに伴う別枠加算を含め地方歳出の一方的な削減は行わないこと。
さらに、平成27年度の地方財政対策において、地方交付税の法定率の見直しが行われたが、特例的な措置である臨時財政対策債は抑制されたものの継続され地方の財源不足は解消されていないことから、引き続き法定率の引上げを含めた抜本的な見直しによって対応することとし、臨時財政対策債は廃止すること。
臨時財政対策債の既往の元利償還金については、その償還額が累増していることを踏まえ、償還財源を確実に別枠として確保すること。
なお、廃止までの間、臨時財政対策債発行可能額の算定においては、過度な傾斜配分にならないようにすること。
(8)国庫補助負担金改革
国庫補助負担金改革は、地方の自由裁量を拡大し、国からの依存財源ではなく、最終的には自主財源である地方税として税源移譲することが目的であることから、国と地方の役割を見直した上で、国の関与をなくすべき事務に係るものについては、原則として廃止し、権限の移譲と併せて、地方税財源の拡充に向けた本質的な議論を行うこと。無論、国の負担を地方に付け替えるような一方的な見直しは厳に慎むこと。
なお、各府省の交付金等についても、税源移譲されるまでの間は、
地方の自由度拡大や事務手続の簡素化などによる一層の運用改善等を図るとともに、地域経済に悪影響を与えることのないよう、事業の着実な実施のために必要な予算を継続的に確保すること。
また、国が都道府県を介さずに市町村や民間事業者等へ直接交付する補助金(いわゆる「空飛ぶ補助金」)は、地方の実情が反映されない恐れがあるばかりか、国による地方への過度な関与や二重行政の拡大につながるなど、地方分権改革に逆行するものである。
ついては、「空飛ぶ補助金」のうち中小企業支援やまちづくり、里山整備など地域振興に資するものは、都道府県へ権限・財源を移譲し、都道府県から市町村や民間事業者等へ補助する制度とすること。
(9)直轄事業負担金制度の改革
直轄事業負担金制度は、直轄事業が全国的視野の下に国家的政策として実施されながら、地方自治体に対して個別に財政負担を課すものであることから、国と地方の役割分担等の見直しや地方への権限と財源の一体的な移譲とあわせ、制度の廃止など抜本的な改革を速やかにかつ確実に進めること。
また、その際には、社会資本整備の着実な実施に配慮した新たな仕組みづくりに向けて、「国と地方の協議の場」等を通じて、地方と十分に協議をすること。