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平成21年度精度管理結果
1. 目的
本精度管理は、「群馬県水道水質管理計画」に基づき、水道試験機関における測定値の信頼性を確保し、自己の技術の客観的な認識および全体的な技術の向上を図ることにより、水道水質の安全性に寄与することを目的に実施するものである。
2. 対象項目
「塩素酸」(水道水質基準値:0.6 mg/L)
3. 参加機関
【水道事業者】前橋市、渋川市、桐生市、みどり市<4機関>
【水道用水供給事業者】県央第一水道事務所、新田山田水道事務所、東部地域水道事務所、県央第二水道事務所、水質検査センター<5機関>
【登録検査機関】アクアス(株)、いであ(株)、(株)科学技術開発センター、(株)環境技研、(社)群馬県薬剤師会環境衛生試験センター、(株)群馬分析センター、(社)県央研究所、(株)江東微生物研究所、(株)新環境分析センター、(株)総研、(株)総合環境分析、内藤環境管理(株)、(株)那須環境技術センター、(財)新潟県県境衛生研究所、(社)新潟県環境衛生中央研究所、(株)日水コン、(株)ビー・エム・エル、平成理研(株)<18機関>
計27機関
4. 配付試料
標準原液は市販の塩素酸イオン標準液(ClO3-:1000 ppm,f=0.99)を用いた。
【試料A】原液を超純水を用いて希釈調製(0.074 mg/L)。
【試料B】原液を河川水を用いて希釈調製(0.16 mg/L)。
いずれの試料にもエチレンジアミンは添加していない。Aは必要とされる定量下限値付近での精度、Bは実際の検体に近い組成で妨害イオンが存在する可能性を考慮した場合を想定している。
5. 結果概要
5-1 試料A
各機関による測定結果の分布を図1(左)に示した。設定濃度をまたぐ階級値に全体の4割以上が集まっており、適切な分析が行われていたと考えられる。設定濃度に対する測定値(測定値/設定濃度=回収率)は0.81~1.19で、平均値は1.04であった。機関内の変動係数は1機関を除き10%以内であり、測定値のばらつきは小さかった。Zスコア*1から「測定結果が不合格」となった機関はなかった。必要とされる定量下限値(基準値の1/10 = 0.06 mg/L)付近での定量性は問題なさそうである。
5-2 試料B
各機関による測定結果の分布を図1(右)に示した。設定濃度付近の階級度数が高く、多くの機関において、適切な分析がなされていたと考えられる。回収率は0.94~1.50で平均は1.06であった。設定値より2割以上大きな値を報告した機関が3あり、うち1機関はZスコアが3を超えた。Aと比較して機関間でのばらつきおよび回収率ともにわずかであるが悪くなっている。設定濃度はAより高いため、分析感度の問題とは考えにくい。また、報告された検量線もAが測定可能ならBも容易に測定可能な範囲であった。可能性としてはマトリックスが多いため、ピークの分離不足が挙げられる。
【Zスコア】Z=(x-μ)/σ で計算される。xは個別の値、μは母集団の平均値、σは母集団の標準偏差。|Z|≦2:満足、2<|Z|<3:結果は疑わしい、3≦|Z|:不満足とされる。
6. 考察
6-1 分析者の経験
今回参加した分析者の経験月数は3~60ヶ月(平均値/中央値約19/18ヶ月)、測定件数は100~13500検体(平均値/中央値約1450/325検体)といずれも広範囲にわたっていた。経験月数との関連性はなかったが、測定件数については、回収率が±20%を越えた機関は、分析担当者の延べ測定件数が200検体以下であった。しかしながら、統計的には分析担当者の経験と測定値の間には明確な関係が認められたとは言えなかった。塩素酸では前処理は通常濾過のみで、複雑な操作を要する作業が比較的少ない。このため、経験による差が出にくかったと思われる。
6-2 測定期間
多くの機関が試料配布から3日以内に分析に着手していた。中には分析終了まで2~4週間経過しているものもあったが、分析値にその影響は認められなかった。公定法では、試料採取後速やかに分析することになっているが、それができない場合には保存することも認めている(保存期間については明記されていない)。保管状態にもよるが、河川水による希釈でも問題はなかったことから、通常の検体であれば半月程度の保存は分析に影響を与えないと思われる。
6-3 測定機器等
測定は全ての機関がサプレッサーを用いたイオンクロマトグラフ法で行っていた。機器の購入時期は1998~2008年であった。分析条件は分析機関によって様々であったが、サンプル数が少ないこともあり、特定の傾向は見られなかった。装置の新旧やメーカーによる差はみられず、適切な分析条件が設定されていれば正確な分析が可能であることが示され、参加機関の分析条件は適切であったと考えられる。
6-4 定量下限・検量線
基準値が0.6 mg/Lであるので、最低限、目標定量下限値は0.06 mg/Lが必要である。したがって、0.06~0.6の範囲において数点の検量線を作成するのが好ましい。それ以上の濃度を測定する場合には別に高濃度用の検量線を作成するか、試料の希釈をすることが理想である。今回の参加機関における検量線は必ずしもそうなってはおらず、低濃度側の精度に不安が残るケースも見られた。しかしながら、報告された分析値には影響が見られなかった。各機関によって測定濃度範囲あるいは必要とされる精度が異なるので、絶対的な基準はない。
定量下限値の根拠としては、ある濃度(検量線の最低濃度)を少なくとも5回測定し、その標準偏差の10倍以上とする方法があり、今回も相当数の機関においてこの方法が採用されていた。数機関においては、その濃度の変動係数が10%以内であることを確認しているだけであった。今回の対象成分が塩素酸なので、ブランク水に含まれる可能性が低かったため、その方法でも結果的に支障がなかったようである。しかしながら、TOCのようにブランク値を避けられない場合には注意が必要である。
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