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平成30年度精度管理結果
1.目的
本精度管理は、水道事業者及び登録検査機関における水質検査の正確さや検査結果の信頼性を確保することを目的に、複数の検査機関が同一の共通試料を測定し、その結果を基に、個人差、品質管理、誤差要因などの解析を行うために「群馬県水道水質管理計画」に基づいて実施するものである。
平成30年度は、対象項目を「亜硝酸態窒素」、「硝酸態窒素および亜硝酸態窒素」、「フッ素およびその化合物」として実施した。
2.参加機関
参加機関は、水道事業者5機関、水道用水供給事業者5機関、水道法第20条に基づく登録検査機関18機関の計28機関であった。
番号 | 参加者分類 | 機関名 |
---|---|---|
1 | 水道事業者 | 前橋市 |
2 | 桐生市 | |
3 | 富岡市 | |
4 | 安中市 | |
5 | 群馬東部水道企業団 | |
6 | 水道用水供給事業者 | 水質検査センター |
7 | 県央第一水道事務所 | |
8 | 県央第二水道事務所 | |
9 | 新田山田水道事務所 | |
10 | 東部地域水道事務所 | |
11 | 登録検査機関 | 社団法人群馬県薬剤師会 |
12 | 株式会社江東微生物研究所 | |
13 | 平成理研株式会社 | |
14 | 株式会社群馬分析センター | |
15 | 株式会社環境技研 | |
16 | 一般社団法人上田薬剤師会 | |
17 | 一般財団法人新潟県環境衛生研究所 | |
18 | 一般社団法人新潟県環境衛生中央研究所 | |
19 | 内藤環境管理株式会社 | |
20 | 環境未来株式会社 | |
21 | 株式会社科学技術開発センター | |
22 | オーヤラックスクリーンサービス株式会社 | |
23 | 株式会社那須環境技術センター | |
24 | 株式会社総研 | |
25 | アクアス株式会社 | |
26 | 株式会社新環境分析センター | |
27 | 株式会社保健科学東日本 | |
28 | 株式会社総合環境分析北関東支社 |
3.実施方法
群馬県衛生環境研究所の協力を得て、平成30年11月21日に試料配布を実施した。
試料の調製および配付容器への分注は関東化学株式会社が行った。
亜硝酸イオン標準液(NO2-1000、化学分析用(JCSS)、Cat.No.28630-23)、硝酸イオン標準液(NO3-1000、化学分析用(JCSS)、Cat.No.28628-23)およびフッ化物イオン標準液(F-000、化学分析用(JCSS)、Cat.No.14613-23)を使用し、溶液中濃度が亜硝酸イオン1mg/L(亜硝酸態窒素0.304mg/L)、硝酸イオン20mg/L(硝酸態窒素4.52mg/L)、フッ化物イオン4mg/Lとなるように超純水に混合したものを配付試料とした。
配付試料を10倍希釈し測定試料とした。分析は測定試料を任意の倍率に希釈後、日常の当該項目分析担当者が通常と同様の分析条件で5回の併行測定を行うこととした。
また、希釈に用いた水も試料と同様の分析条件で測定を行うこととした。
4.測定結果について
硝酸態窒素および亜硝酸態窒素の分析については、合算値ではなく硝酸態窒素、亜硝酸態窒素をそれぞれ評価することとした。各機関の測定結果から、室内変動係数を算出した。また、Smirnov-Grubbs検定を行い、検定統計量が有意点を超えた場合は外れ値とし棄却することとした。外れ値として棄却された値があった場合、その値を除外して再度検定を行い、同様の操作を外れ値が検出されなくなるまで繰り返した。棄却を行った後にZスコア、室間変動係数の算出を行った。
(1)亜硝酸態窒素
各機関の分析結果は0.0289~0.0390mg/L、中央値0.0308mg/L、平均値0.0316mg/L、設定濃度に対する回収率は95.0~128%であった。各機関の室内変動係数は0.2~5.8%であり、全て10%以内であった。
Smirnov-Grubbs検定を行ったところ、機関ソの分析結果はT=3.153>tとなったため外れ値として棄却した。外れ値棄却後の分析結果は0.0289~0.0367mg/Lであり、中央値は0.0308mg/L、平均値は0.0313mg/L、設定濃度に対する回収率は95.0~121%(平均値103%)となった。Zスコアについては、「合格(|Z|≦2)」25機関、「疑わしい(2<|Z|<3)」2機関となった。また、室間変動係数は5.9%であった。
(2)硝酸態窒素
各機関の分析結果は0.429~0.526mg/Lであり、中央値0.451mg/L、平均値0.456mg/L、設定濃度に対する回収率は94.8~116%であった。各機関の室内変動係数は0.1~1.7%であり、全て10%以内であった。
Smirnov-Grubbs検定を行ったところ、機関オの分析結果はT=3.470>tとなったため外れ値として棄却した。外れ値棄却後の分析結果は0.429~0.498mg/Lであり、中央値は0.451mg/L、平均値は0.454mg/L、設定濃度に対する回収率は94.8~110%(平均値100%)となった。Zスコアについては、「合格(|Z|≦2)」25機関、「疑わしい(2<|Z|<3)」1機関、「不合格(|Z|≧3)」1機関となった。また、室間変動係数は3.2%であった。
(3)フッ素およびその化合物
各機関の分析結果は0.383~0.838mg/Lであり、中央値0.402mg/L、平均値0.421mg/L、設定濃度に対する回収率は95.9~210%であった。各機関の室内変動係数は0.1~3.8%であり、全て10%以内であった。
Smirnov-Grubbs検定を行ったところ、機関オ、エ、ソの分析結果は順にT=4.974>t,T=3.391>t,T=3.293>tとなったため外れ値として棄却した。外れ値棄却後の分析結果は0.383~0.431mg/Lであり、中央値0.401mg/L、平均値は0.402mg/L、設定濃度に対する回収率は95.9~108%(平均値100%)となった。Zスコアについては、「合格(|Z|≦2)」23機関、「疑わしい(2<|Z|<3)」2機関となった。また、室間変動係数は2.6%であった。
5.分析
5-1.分析経験
分析担当者の分析経験は、7~300ヶ月と幅広く、中央値は62ヶ月、平均値は約70ヶ月であった。また、分析のべ検体数も、60~118,672検体と大きな差があり、中央値は2400検体、平均値は約9600検体であった。
5-2.測定方法
測定方法は28機関すべての機関においてイオンクロマトグラフ法を用いていた。検出器について、フッ素およびその化合物は全28機関で電気伝導度検出器が用いられていたが、亜硝酸態窒素は電気伝導度検出器18機関、UV検出器10機関、硝酸態窒素は電気伝導度検出器20機関、UV検出器8機関と機関によって異なる検出器を用いていた。
5-3.分析日
分析開始日は、配付後1日以内が24機関、2~3日後が0機関、4日後~2週間以内が4機関であった。なお、水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法(平成15年厚生労働省告示第261号)においては、試料は採取後速やかに試験し、速やかに試験できない場合は冷暗所に保存し、24時間以内に試験することとしている。
6.まとめ
「硝酸態窒素」、「硝酸態窒素および亜硝酸態窒素」、「フッ素およびその化合物」の項目について精度管理試験を実施した。「硝酸態窒素および亜硝酸態窒素」の評価は、合算値ではなく硝酸態窒素、亜硝酸態窒素の分析値をそれぞれ評価することとした。
分析値についてSmirnov-Grubbs検定を行ったところ外れ値となった機関が亜硝酸態窒素で1機関、硝酸態窒素で1機関、フッ素およびその化合物で3機関あった。Zスコアによる評価では亜硝酸態窒素で2機関が「疑わしい」、硝酸態窒素で1機関が「疑わしい」、1機関が「不合格」、フッ素およびその化合物で2機関が「疑わしい」という判定だった。設定濃度に対する回収率は亜硝酸態窒素で95.0~121%(外れ値棄却後、以下同様)、硝酸態窒素で94.8~110%、フッ素で95.9~108%であった。機関内および機関間の変動係数は全て10%以内であり、分析値のばらつきは小さかった。なお、前述の硝酸態窒素のZスコアによる評価で「不合格」と判定された機関においても、回収率は110%と良好な値であったため精度が確保できなかったとは断定できない。
分析結果を棄却した機関については、その原因について食品・生活衛生課へ報告書が提出され、カラム・サプレッサーの汚染・劣化によるピーク形状および分離の悪化や検量線標準液の作製不良によるものと推測された。これらの原因の対策としてカラム・サプレッサーの洗浄・メンテナンスやマイクロピペットの校正が挙げられている。また、今回外れ値となった値はすべて設定値より高い値であるため、検量線溶液の劣化や試料へのコンタミネーションも原因として考えられる。