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令和元年度精度管理結果
1.目的
本精度管理は、水道事業者及び登録検査機関における水質検査の正確さや検査結果の信頼性を確保することを目的に、複数の検査機関が同一の共通試料を測定し、その結果を基に、個人差、品質管理、誤差要因などの解析を行うために「群馬県水道水質管理計画」に基づいて実施するものである。
令和元年度は、対象項目を「ヒ素及びその化合物」、「セレン及びその化合物」として実施した。
2.参加機関
参加機関は、水道事業者5機関、水道用水供給事業者1機関、水道法第20条に基づく登録検査機関17機関の計23機関であった。
番号 | 参加者分類 | 機関名 |
---|---|---|
1 | 水道事業者 | 前橋市 |
2 | 桐生市 | |
3 | 富岡市 | |
4 | 安中市 | |
5 | 群馬東部水道企業団 | |
6 | 水道用水供給事業者 | 水質検査センター |
7 | 登録検査機関 | 社団法人群馬県薬剤師会 |
8 | 株式会社江東微生物研究所 | |
9 | 平成理研株式会社 | |
10 | 株式会社群馬分析センター | |
11 | 株式会社環境技研 | |
12 | 一般社団法人上田薬剤師会 | |
13 | 一般財団法人新潟県環境衛生研究所 | |
14 | 一般社団法人新潟県環境衛生中央研究所 | |
15 | 内藤環境管理株式会社 | |
16 | 環境未来株式会社 | |
17 | オーヤラックスクリーンサービス株式会社 | |
18 | 株式会社那須環境技術センター | |
19 | 株式会社総研 | |
20 | アクアス株式会社 | |
21 | 株式会社新環境分析センター | |
22 | 株式会社保健科学東日本 | |
23 | 株式会社総合環境分析北関東支社 |
3.実施方法
群馬県衛生環境研究所の協力を得て、令和元年12月9日に試料配付を実施した。
試料の調製及び配布容器への分注は関東化学株式会社が行った。
ヒ素標準液(As 1000、化学分析用(JCSS)、Cat.No. 01805-2B)、セレン標準液(Se 1000、化学分析用(JCSS)、Cat.No. 37808-1B)、イットリウム標準液(Y 1000、原子吸光用、CatNo.47012-1B)及び硝酸1.38(特級、Cat.No. 28163-00)を使用し、溶液中濃度がヒ素15 mg/L、セレン5 mg/L、イットリウム1 mg/L、硝酸1 v/v%となるように超純水に混合したものを配付試料とした。関東化学株式会社が実施した確認試験の結果から、配付試料中の対象項目の濃度はヒ素14.9 mg/L、セレン5.2 mg/L、イットリウム1.0 mg/Lである。
配付試料を1000倍希釈した溶液を測定試料とし、測定試料について分析を行うこととした。したがって、測定試料中の対象項目の濃度(設定濃度)はヒ素が0.0149 mg/L、セレンが0.0052 mg/Lである。分析は、通常の業務において対象項目の分析を担当する者が通常の業務と同様の分析方法で5回の併行試験を実施することとした。
4.測定結果について
(1)ヒ素
全機関の測定結果から算出した平均値は0.0144 mg/L、中央値が0.0143 mg/L、標準偏差が0.00075 mg/Lであり、設定濃度(0.0149 mg/L)と比較すると平均値は3.4%、中央値は4.1%低い値であった。中央値からのずれが±10%の範囲を逸脱したのは2機関であった。zスコア及び室内変動係数は全ての機関が判断基準とした範囲以内であった。
(2)セレン
全機関の測定結果から算出した平均値は0.00492 mg/L、中央値が0.00500 mg/L、標準偏差が0.00023 mg/L であり、設定濃度(0.0052 mg/L)と比較すると平均値は5.4%、中央値は3.9%低い値であった。中央値からのずれが±10 %の範囲を逸脱した機関が2機関であった。zスコア及び室内変動係数については全ての機関が判断基準とした範囲以内であった。
(3)イットリウムによる測定値への影響
誘導結合プラズマ質量分析装置を使用した機関において、内部標準物質にイットリウムを使用した場合の測定結果とイットリウム以外の物質を内部標準物質とした場合の測定結果に差があるかを確認した。
報告された測定結果を設定濃度に対する一致率に変換し、イットリウムを内部標準物質とした群と、イットリウム以外を内部標準物質とした群に分類したところ、各群の中央値等は10%程度離れていることが確認できる。また、この2つの群でT検定を実施したところ有意差がある(p < 0.05)ことが確認された。室内変動係数では有意差が確認できなかった(p > 0.05)ため、予め添加したイットリウムは定量結果に一定の負のバイアスを与えたと考えられる。
5.分析
5-1.分析経験
分析担当者の経験年数は1年未満から10年以上まで幅広く、最も多かったのは2.5年以上5年未満であった。延べ分析検体数も100 検体未満から10000検体以上まで幅広く、最も多かったのは1000検体以上5000検体未満であった。
5-2.測定方法
測定方法は、全ての機関でヒ素とセレンで同じ装置を用いて測定しており、誘導結合プラズマ質量分析装置を使用した機関が23機関中20機関、水素化物発生-誘導結合プラズマ発光分光分析装置が1機関、フレームレス-原子吸光光度法を使用した機関が2機関であった。水素化物発生-原子吸光光度法又はその他の測定方法により測定している機関はなかった。水素化物発生-誘導結合プラズマ発光分光分析装置、フレームレス-原子吸光光度法を使用した機関が少なかったため統計解析は実施していないが、測定方法による分析結果の違いは確認できなかった。
6.まとめ
中央値からのずれ及びzスコアが判断基準とした範囲から大きく逸脱し精度管理に問題があると判断した機関はヒ素で1機関、セレンでは0機関であった。
中央値からのずれのみが判断基準とした範囲を逸脱しているなど、注意が必要だと思われる機関がヒ素とセレン共に2機関であり、その主な原因は予め測定試料に含まれている物質と同じ物質を内部標準物質に使用したことであると推測される。日頃から内部標準物質の指示値やそのばらつきを確認し、異常を確実に発見できる体制を整えることで、より正確な測定結果を出すことができると思われる。