本文
本計画は、河川法第16条の2に基づき、渡良瀬川圏域の一級河川において今後30年間に行う整備の具体的な内容を、学識経験者、地域住民及び関係市長の意見を聞いて定めたものであり、平成24年2月に国の認可を受けたものです。なお、適宣その内容について点検を行い、必要に応じて変更するものとします。
第2章 河川の現況と課題
第1節 洪水による災害の発生の防止又は軽減に関する事項
第2節 河川の適正な利用と正常流量の確保に関する事項
第3節 河川環境の整備と保全に関する事項
第3章 河川整備計画の目標に関する事項
第1節 計画対象区間及び計画対象期間
第2節 洪水による災害の発生の防止又は軽減に関する事項
第3節 河川の適正な利用と正常流量の確保に関する事項
第4節 河川環境の整備と保全に関する事項
第4章 河川整備の実施に関する事項
第1節 河川工事の目的及び種類
第2節 河川工事の施工場所及び設置される河川管理施設の機能の概要
第3節 河川の維持の目的、種類及び施工の場所
第5章 河川情報の提供、地域や関係機関との連携等に関する事項
第1節 河川情報の提供に関する事項
第2節 地域や関係機関との連携等に関する事項
渡良瀬川圏域は、桐生市(旧桐生市、旧黒保根村)、みどり市(旧東村、旧大間々町の一部)の2市で構成されている。
渡良瀬川は、栃木県日光市(足尾町)の皇海山(すかいさん)
(に源を発して、渡良瀬遊水地を経て利根川に流入する流路延長107.6キロメートル、流域面積2,621平方キロメートル(km2)の群馬県及び栃木県にまたがる広大な流域を持つ利根川水系最大の支川である。このうち県管理区間は、みどり市大間々町高津戸から上流であり、草木湖を含む一部区間を除いて栃木県境までとなっている。
桐生川は、渡良瀬川流域の最大支川であり、いくつもの渓流を合わせながら南に流れ、桐生川ダムからは南西へと流れを変え、桐生市街地の東縁を通り、南東に向きを変え、圏域から外れ渡良瀬川に合流する。
山田川は鳴神山から蛇行しながら南下して渡良瀬川に合流している。
渡良瀬川圏域の東部には急峻な山々が連なり、南西部では広々とした火山灰大地が緩やかに展開され、その南部はなだらかな起伏を持つ平坦地となっている。また、一部においては渡良瀬川によって形成された扇状地を形成している。
圏域の北東部にある草木ダム周辺には花崗岩体が貫入し、三境山頂部には例外的に新第三紀の溶結凝灰岩が堆積している。渡良瀬地域南部及び前橋・東毛地域は、泥流堆積からなる前橋台地、砂礫の上部にローム層が発達した大間々扇状地、利根川や渡良瀬川による河川堆積からなっている。
渡良瀬川圏域は、本州の中心部に位置するため、夏は蒸し暑く、冬は寒くて乾燥する内陸性の太平洋気候である。年間の平均気温はおおむね14度~15度であり温暖な気候となっている。年間平均降水量は1300mm程度であり、群馬県は内陸に位置しているため全国平均より少ない。
本圏域は山林が大半を占め、様々な野生動植物が生息・生育・繁殖しており、ニホンカモシカ、ツキノワグマ、ニホンジカ、ニホンザル、イノシシなどの大型哺乳類の生息が確認されている。また、圏域内は標高差があるため、様々な植物が自生している。山林はスギ・ヒノキ等の人工林と、クヌギ・コナラ等の二次林となっている。鳴神山には、カッコソウ自生地があり、自然保護団体や地元住民等の協力により保全活動が行われている。
圏域の近年における人口は約7割が桐生市、約3割がみどり市となっている。桐生市の人口は年々減少する傾向にあるが、みどり市は穏やかな増加傾向を示している。
圏域内の産業については、第三次産業の比率が他産業に比べ高い割合を示している。
なお、農地については減少傾向にあり、現状以上の水量確保といった水利用の大きな変化はないものと考えられる。
生活環境としては、小中大滝や鳴神山等の自然環境保全地域や小平親水公園、高津戸峡等が人々の憩いの場として広く利用されている。特に、桐生川においては清流を利用して、染織を行う工程で使用する染料を加えた色のりを流し落とす伝統的技法の保存のため友禅流しが行われている。
渡良瀬川圏域における過去の大きな水害は、昭和22年9月のカスリン台風をはじめとし、昭和23年9月のアイオン台風、昭和24年8月のキティー台風と連続して災害に見舞われ、なかでもカスリン台風は、当地域だけでなく群馬県全域で未曾有の災害をもたらした。
また、昭和57年9月の台風18号においても床上浸水を含む大きな被害が発生している。
近年においては、表-2.1に示すとおり、各支川等において、小規模な内水被害が発生しているが、河川改修の進展や桐生川ダムの完成(昭和58年)に伴って大きな洪水被害は減少している。
しかしながら、全国的に発生している中小河川の破堤氾濫による被害や、過去のカスリン台風などの甚大な被害が地域にもたらす影響を考慮すると、渡良瀬川圏域においても、住宅の密集する地域を中心に、今後も洪水被害軽減のために治水対策が必要であるといえる。
発生年月日 | 原因 | 床下浸水 (戸) |
床上浸水 (戸) |
宅地浸水 (ヘクタール) |
農地浸水 (ヘクタール) |
---|---|---|---|---|---|
昭和57年7月31日-8月2日 | 台風10号 | 6戸 | |||
昭和57年9月11日-9月13日 | 台風18号 | 357戸 | 43戸 | ||
昭和61年8月11日~8月19日 | 豪雨 | 1戸 | 9ヘクタール | ||
昭和62年7月11日~8月8日 | 豪雨、台風第5号 | 21戸 | 30ヘクタール | 200ヘクタール | |
平成2年8月9日~8月11日 | 台風第11号 | 4戸 | 4戸 | 2ヘクタール | |
平成2年9月11日~9月20日 | 豪雨、台風第19号 | 3戸 | 2ヘクタール | ||
平成6年7月18日 | その他の異常気象 | 5戸 | 3戸 | 45ヘクタール | |
平成9年7月31日 | その他の異常気象 | 1戸 | 1ヘクタール | ||
平成9年8月29日 | その他の異常気象 | 27戸 | 1戸 | 27ヘクタール | |
平成9年6月18日~6月21 日 |
梅雨前線豪雨及び台風第8号 | 2戸 | 3ヘクタール | ||
平成9年7月25日~7月29日 | 台風第9号及び豪雨 | 1戸 | 1ヘクタール | ||
平成9年8月3日~8月13日 | 豪雨及び台風第11号 | 2戸 | 3ヘクタール | ||
平成10年8月25~8月31日 | 豪雨 | 12戸 | 2戸 | 24ヘクタール | |
平成10年9月14日~9月18日 | 豪雨及び台風5号 | 2戸 | 1戸 | 14ヘクタール | |
平成11年9.9日 | その他の異常気象 | 3戸 | 2ヘクタール | ||
平成12年7月1日~7月5日 | 豪雨 | 16戸 | 13ヘクタール | ||
平成12年7月14日~7月20日 | 豪雨 | 4戸 | 4ヘクタール | ||
平成14年7月8日~7月12日 | 梅雨前線豪雨及び台風6号 | 4戸 | 4ヘクタール | ||
平成15年8月6日~8月10日 | 台風10号 | 9戸 | 10ヘクタール | 9ヘクタール | |
平成17年8月9日~8月17日 | 豪雨 | 2戸 | 4ヘクタール | ||
平成18年 | その他の異常気象 | 2戸 | 2戸 | 7ヘクタール | |
平成19年7月29日~7月31日 | 豪雨 | 1戸 | 3ヘクタール |
出典:水害統計 国土交通省河川局河川計画課、昭和56・57年洪水記録 群馬県土木部河川課
渡良瀬川圏域内(県管理区間)の水利用は、渡良瀬川本川上流の発電で多く利用されている。各支川では、多くが農業用水として利用されている。
渡良瀬川や桐生川においては、草木ダムや桐生川ダムにて、平常時の維持流量の確保及び渇水時の下流への補給がなされており比較的安定した流況が確保されている。
渡良瀬川圏域の河川は、河床勾配は1/150~1/400の急流河川であり、河道は礫・玉石を主とした礫河原が形成されている。
河川の水質については、環境、利水状況に応じて類型指定し、その類型ごとに環境基準が定められている。渡良瀬川圏域の河川では渡良瀬川、桐生川の2河川に水質測定地点があり、渡良瀬川(桐生川合流後)と桐生川(観音橋より下流)はB類型、その他はA類型に指定されている。また、草木ダム、桐生川ダムでは湖沼A類型に指定されている。
水質の状況は、表-2.7のとおりであり、近10年の平均値でみると、一部大腸菌群数が未達成であるものの、それ以外については十分基準を満足している状況であり、特にBOD値などは上位の類型基準を満たすほどの良好な水質が確保されている。
なお、渡良瀬川圏域の汚水処理人口普及率については、桐生市では87.8%と県内でも普及率が非常に高く、みどり市では46.9%で、県平均70.0%を下回る状況にある。
河川に生息する動物については、圏域の河川には、泥底の止水域を好むコイやドジョウ、石礫底の流水域を好むウグイなどが生息している。この他、スナヤツメ、ホトケドジョウ、ギバチなどの貴重種も確認されている。近年では、地元漁協により漁業権魚種であるアユ、ヤマメ等が放流されている。水域にはこれらの魚類のほかにも、カワセミ、カワガラス、セキレイ類、サギ類などの鳥類も生息している。
また、植物では、カザグルマ、コバノカナワラビ、ヤワタソウなどの貴重種について、圏域内での生育情報がある。
このような多種多様な生物が、生息・生育・繁殖できる環境の整備、保全が必要である。
計画対象区間は、渡良瀬川圏域内河川において、県が管理する一級河川すべて(県管理区間全てが砂防指定地である河川は除く)とする。(表-3.1 渡良瀬川圏域河川一覧表)
計画対象期間は、渡良瀬川圏域内の一連の河川事業の完成によって効果が期待できる今後30年間とする。なお、社会状況、災害の発生状況等に応じて、適宜見直しを行うこととする。
番号 | 河川名 | 河川延長 (メートル) |
備考 | ||||
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1次支川 | 2次支川 | 3次支川 | よみがな | ||||
1 | 渡良瀬川 | わたらせがわ | 30,308メートル | ||||
2 | 桐生川 | きりゅうがわ | 38,354メートル | ||||
3 | 小友川 | おともがわ | 4,000メートル | ||||
4 | 黒川 | くろかわ | 2,850メートル | ||||
5 | 高沢川 | こうざわがわ | 3,927メートル | ||||
6 | 忍山川 | おしやまがわ | 4,500メートル | 県管理区間全てが砂防指定地 | |||
7 | 皆沢川 | かいざわがわ | 3,800メートル | ||||
8 | 広沢川 | ひろさわがわ | 1,970メートル | ||||
9 | 小倉川 | おぐらがわ | 3,500メートル | ||||
10 | 山田川 | やまだがわ | 9,360メートル | ||||
11 | 名久木川 | なぐきがわ | 2,500メートル | ||||
12 | 小平川 | おだいらがわ | 11,160メートル | ||||
13 | 入山沢川 | いりやまさわがわ | 2,100メートル | ||||
14 | 塩沢川 | しおざわがわ | 3,900メートル | ||||
15 | 深沢川 | ふかさわがわ | 7,200メートル | ||||
16 | 川口川 | かわぐちがわ | 3,491メートル | 県管理区間全てが砂防指定地 | |||
17 | 小黒川 | おぐろがわ | 8,773メートル | ||||
18 | 田沢川 | たざわがわ | 5,700メートル | ||||
19 | 沢入川 | そうりがわ | 2,200メートル | ||||
20 | 房川 | ふさかわ | 2,000メートル | ||||
21 | 小中川 | こなかがわ | 2,509メートル | ||||
22 | 樋之入川 | ひのいりがわ | 1,250メートル | 県管理区間全てが砂防指定地 | |||
23 | 柱戸川 | はしらどがわ | 2,200メートル | ||||
24 | 押手川 | おしてがわ | 1,600メートル | 県管理区間全てが砂防指定地 | |||
25 | 黒坂石川 | くろさかしがわ | 3,491メートル | ||||
合計 25河川 |
渡良瀬川圏域の河川において、沿川の人口・資産の状況、現況の流下能力、災害の発生状況等や群馬県の他河川とのバランスを考慮して、10年に1回程度発生すると予想される洪水による氾濫を防止することを目標とする。
ただし、桐生川は、築堤河道をなし、桐生市の市街地を流下する主要河川であるため、越水破堤した場合に想定される被害の発生状況を考慮して、昭和58年に完成した桐生川ダムの洪水調節機能とあわせて、概ね100年に1回程度発生すると予想される洪水による氾濫を防止することを目標とする。
渡良瀬川圏域内に発生する内水による家屋の浸水については、関係する市町村と連携を図って被害の軽減に努める。
景観や水質、動植物の生息・生育・繁殖を配慮した水環境の保全のため、また河川水の利用が支障なく行われるために最低限維持する正常流量について、桐生川において、大堰地点にて、かんがい期に0.13立方メートル(m3)/s、非かんがい期に0.12立方メートル(m3)/sを確保するよう努める。
なお、現状において、上流には桐生川ダムが整備済みであり、渇水時の補給など今後も適切な運用を図り、水環境保全及び水利用の安定を図る。
また、圏域本川である渡良瀬川は、利根川水系河川整備基本方針において、大間々地点で、かんがい期に概ね25立方メートル(m3)/s、非かんがい期に概ね7立方メートル(m3)/sの正常流量を設定している。
なお、その他の河川の具体的数値については、今後、流量調査、水利用実態調査等の流況の把握、詳細な河川水の利用状況の把握に努める。
水質が良好な河川や茂った河畔林の多い河川など、自然が豊かで多くの動植物が生息・生育・繁殖している地域については、動植物を可能な限り保全し、自然を活かした水辺環境の整備を行う。
河岸保全のためコンクリートによる護岸整備を行う場合でも、瀬・淵の保全や十分な幅をもつ河道にするなど多自然川づくりの考え方にて、動植物が生息・生育・繁殖できるような水辺環境の整備を行う。
市街地を流れる河川や近傍に公園などの人々が集まる施設がある河川では、地域の人々の意見もふまえ、気軽に人々が川に親しむことのできる水辺空間の整備を行うとともに、生態系に配慮し、動植物の生息・生育・繁殖に適した環境の保全・整備に努める。
上記の整備にあたっては、特に貴重種の生息が確認されている場合、専門家の意見を聴くなどして動植物の生息・生育・繁殖に適した環境の保全・整備に努める。
河川の水質や河川空間の保全に取り組むとともに、下水道、環境部局などの関係機関及び地域住民との連携を図る。
水辺景観の保全、利用推進の観点から、河川の豊かな水量を保持するため、農業や発電等の利水者と十分な連絡調整を図る。
本整備計画の目標は、洪水による災害の発生の防止または軽減、河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持、河川環境の整備と保全としている。
河川整備計画の目標を達成するための方策として、次のとおり河川の整備を効果的かつ経済的に実施する。
なお、工事の実施にあたっては、河川の水利用の現状を調査し、支障なく適正な水利用が行えるよう、また水辺の自然環境の保全に配慮し、人々が川に親しむことができるよう考慮する。
河川工事の施工場所及び設置される河川管理施設の機能の概要は以下のとおり。
河川名 |
整備を予定する区間 |
延長 |
---|---|---|
桐生川 |
大堰上流180メートル~観音橋 |
1720メートル |
山田川 |
高橋~山田橋上流90メートル |
1620メートル |
桐生川は、桐生市の密集市街地を流下する河川であり、氾濫することにより多大な浸水被害が生じることから、沿川地域の治水安全度を向上させることが急務となっている。
すでに完成している桐生川ダムの洪水調節機能とあわせて、河道拡幅を実施することにより、概ね100年に1回程度発生すると予想される洪水を安全に流下させる。なお、改修は下流直轄区間の改修状況と調整を図りつつ適切に進める。
改修に当たっては、現況の優れた河川環境を極力保全するため、片岸の改修を基本にして、改変範囲を最小限にとどめるとともに、貴重な魚類の生息環境でもある現況河床の保全に十分配慮する。また、沿川の良好な河畔林を極力保全する。
河積拡大のための河床掘削は極力少なくし、あわせて水際改変の抑制、従来から現地にある玉石・大礫等の存置などを実施することで、自然環境の保全に努める。
整備の実施にあたっては、動植物の保護に十分配慮することとする。
施工区間 | 大堰上流180メートル~観音橋 |
---|---|
延長 | L(延長)=1720メートル |
整備内容 | 築堤工、護岸工、掘削工 |
山田川は、現況河積が狭小で、屈曲部が多く、過去にも出水により浸水被害の危険性にさらされている。沿川の宅地化の進展と共に、沿川地域の治水安全度を向上させることが急務となっている。
このため、河道拡幅のため、築堤、掘削、護岸等を実施することにより、概ね10年に1回程度発生すると予想される洪水を安全に流下させる。
改修に当たっては、貴重な魚類の生息環境でもある現況河床の保全に十分配慮する。あわせて、動植物の環境を大きく変化させないため、現況の縦断勾配を維持して、流速とそれに伴う河床材料の変化が大きくならないよう注意する。また、沿川の良好な河畔林を極力保全する。
河積拡大のための河床掘削は極力少なくすると共に、十分な幅をもつ河道とすることで、自然な水の流れを形成して河岸の植生の回復を促し、川らしい景観を維持して、周辺の風景との調和を目指す。
整備の実施にあたっては、動植物の保護に十分配慮することとする。
施工区間 | 高橋~山田橋上流90メートル |
---|---|
延長 | L(延長)=1620メートル |
整備内容 | 護岸工、掘削工 |
河川の維持については、河川のもつ特性や沿川の土地利用状況を踏まえつつ、「災害の発生の防止」、「流水の正常な機能の維持」、「河川の適正な利用と保全」、「河川環境の整備と保全」の観点から総合的に行う。
渡良瀬川圏域の河川においては、日常的に以下のような維持管理を行う。
第1章 圏域の概要
第2章 河川の現況と課題
第3章 河川整備計画の目標に関する事項
第4章 河川整備の実施に関する事項
第5章 河川情報の提供、地域や関係機関との連携等に関する事項