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平成29年3月、都内で、ジュースにハチミツを混ぜて与えたことが原因とされる乳児ボツリヌス症の死亡事故が発生しました。「ボツリヌス症」という言葉を聞いて、新種の感染症と思われる方もいるかも知れませんが、昔からある病気で、ボツリヌス菌Clostridium botulinumが食品等を介してヒトに健康被害を起こす疾患のことをいいます。今回のように死亡事故にまで至る事例もあるので、ボツリヌス症について理解を深め、健康被害を未然に防止しましょう。
ボツリヌス症はボツリヌス菌が産生したボツリヌス毒素により発症し、大きく分けて「ボツリヌス食中毒」、「乳児ボツリヌス症」、「創傷ボツリヌス症」の3つの型に分類されます。ここでは、そのうち食品等を介して起こるもの2つについて説明します。
食品中でボツリヌス菌が増殖する際に産生する毒素を、食品とともに摂取することにより発症します。
吐き気、おう吐、視力障害、言語障害、えん下困難(物を飲み込みづらくなる)などの神経症状が現れるのが特徴で、重症例では呼吸麻痺により死亡する事例もあります。
ビン詰、缶詰、容器包装詰め食品、保存食品等、無酸素状態の食品で、具体的には過去に飯寿司(いずし)や熟寿司(なれずし)、辛子レンコンなどの報告事例があります。
腸管が未発達な1歳未満の乳児に特有の病気で、ボツリヌス菌の芽胞(※注)が、乳児の腸管内で発芽・増殖し、その際に産生される毒素が原因で発症します。
※注:芽胞とは、特定の細菌が増殖に適さない環境になったときに変化する形態で、加熱や乾燥に対して強い抵抗性があります。
便秘が数日間続き、全身の筋力が低下する脱力状態になり、哺乳力の低下、泣き声が小さくなる等、筋肉が弛緩することによる麻痺症状が特徴です。多くの場合、適切な治療により治癒しますが、まれに死亡する事例もあります。
乳児ボツリヌス症の殆どはハチミツを原因としていますが、国内では井戸水の報告事例もあります。
1歳未満の乳児には、食品表示を十分に確認して、ハチミツやハチミツを含む食品を絶対に食べさせないようにしましょう。